*頼もしい幼馴染みと熱狂ファン*


「お姉様!穂波君」

五葉大に付くや否や、元気な声が結衣と多駕に掛かる。
結衣ファンの阿澄(アスミ)莉音(リオン)、彼女もまた五葉大生だ。

「おはよう、阿澄さん」
「おはようございます。って呑気に挨拶している場合ではございません、一大事です」
「何かあったの?」
「事件です、お姉様が先日、手塩にかけて作られたフェルト作品が紛失してしまったんです」
「あらま」
「犯人絶対に許しません、阿澄グループのどんなコネを駆使してでも犯人を見つけ出してやります。もし、お姉様の作品に指紋一つでも残していたら、その指切り落としてやるんだから」
「こら、おっかない事を言わないの。大丈夫よ、また作り直すから」
「お姉様は優し過ぎます。私だって本当は欲しかったのに~お姉様の作品が手に入るのなら、私、幾ら大金出しても構いません」
「無駄遣いは駄目ですよ」
「お姉様の生み出したものなら、国宝級に貴重です」

全然怒りの取れない阿澄とは逆に、結衣は務めて冷静だった。
結衣自身、そこまでフェルト作品に思い入れがないからであるが。
特待生の条件として、学費免除を受けられる代わりに、様々な依頼に応じ、奉仕活動をこなさなければならないと言う物がある。
今回、紛失したフェルト作品は、その依頼業務の一環で、結衣が先日提出した物だ。
因みに歴代の特待生達は、押し付けられる依頼が嫌で、特待生の立場を諦め、退学を選ぶ者も少なくなかったとか。

「へぇ、結衣の物を盗むとはいい度胸してるな、その犯人。阿澄、俺も犯人探しに協力するわ」
「穂波君が力になってくれるなら頼もしいです、速攻で犯人確保、間違い無しですね」

何故か多駕も阿澄に便乗し出した。
昔から、多駕は謎解きや解明が好きで、小さい時はよく、結衣や結羽と共に犯罪現場で探偵ごっこをしては、大人達に叱られていた。
何度か、多駕の指摘で犯人逮捕に貢献した事もあったな、なんて結衣は思い出す。

「多駕は、暇つぶししたいだけでしょ?」
「わかるか?夕方までには、犯人の目星ぐらいは付けとくつもりだからさ、新しいの作り直す必要ないからな。阿澄、現場まで案内頼む」
「まずは現場検証って訳ですね、では早速向かいましょ」

阿澄に先導され、多駕も現場へと向かう。
結衣だけがその場に残され「行ってらっしゃい」と呟き、二人を見送ったのだった。

で、その日の午後には結衣のフェルト作品が無事に見つかり、犯人と、その犯人のその後は・・・多駕と阿澄だけが知る所となった。