お土産コーナーなども物色し、小鳥フェスタ閉園ギリギリまで堪能させて貰った。
今はビル近くの公園のベンチで一息中。

「家族連れも多かったね。小さい子と小鳥の戯れる姿なんて、ときめき要素でしかないよ、ふわ〜癒やされた」

でも少し、楽しそうな親子の様子を見て、胸が痛んだ。
無駄だと分かっていても、思い描いてしまうーーーー多駕との子を腕に抱きながら、隣に居る多駕と笑い合う、私達の様子を。

「小さい子に混じって、小鳥とはしゃぐ結羽の姿も、なかなか観物で面白かったぞ」
「それ褒めてる?」
「さぁな」
「でも、少しはしゃぎ過ぎたのは確かかも」
「疲れたなら、もう帰るか?」

多駕の問いに、私は首を振った。
夕闇になるにはまだ早い時刻。
お姉ちゃんも、今日は夜間バイトで帰りが遅い筈。
ただ結空ちゃんは物凄く心配して、泣いてるかもしれないと思うと心苦しくなる。
でも、私はまだ今日と言う日を終わらせたくない、多駕ともう少しだけ、一緒に居たい。

「久しぶりに、カラオケ行かない?多駕の歌、聞かせて」

私はすぐ酸欠になって歌う事は出来ないけど、癖強の多駕の歌を浴びたくなった。

よく歌いに行ったカラオケ店に、手を結び、二人で向かう。


*****


4階建てのカラオケ店で、店長さんとは仲良くさせて貰っていた。
「久しぶりだね」と笑顔で声を掛けられ、私お気に入りの個室を案内してくれた。
窓から外が見えるとっておきの場所。

・・・多駕に言わなきゃいけない事がある。
もし、今日この日まで、生きられたのなら、伝えなきゃな、と思っていた。
本当は多駕のお部屋を訪れた最後の日に伝える筈だった。
なのに多駕が小鳥フェスタの話なんてして、お別れの日を延長するから、こんなに滞ってしまった。
窓際に立ち、オレンジ色の外を見上げながら、往生していた言葉を紡ぐ。

「さよなら、しよ、多駕。約束、やっぱり守れそうにないみたい、ごめんね。私ね、約束のおかげでとっても幸せだったよ、ありがとう。だから、多駕は・・・」

最後まで言わなきゃ。
素敵な恋人を見付けて幸せになってね、って。
悔しいけど、仕方ないよね、私もうすぐ死んじゃうんだし。
引き際ぐらい、カッコ良く終わらせたいじゃない。

「多駕は・・・すて、き、な・・・」

やだ、やだ、やだ。
やっぱり、嫌。
ねぇお願いだから、ずっと私を好きで居て。
私はもう居なくなっちゃうけど、私以外の人を、選んだりしないでよ。

「結羽」
「・・・」
「愛してる」

後ろから優しく抱きしめられる。
やっぱり、この暖かい居心地を知るのは、自分だけじゃないと嫌だ。
誰にも、譲りたくない。

「俺は結羽以外、嫁に迎える気はないよ。大好きだよ結羽、死ぬのが早いか遅いか、たったそれだけの違いだ。大人しく、あの世で待ってろ。結羽こそ、待ちくたびれてあの世で浮気すんなよ」

多駕は私の涙腺を壊すのが得意だ。
全身の水分が無くなるんじゃないかと思う程、多駕に向き直り、しがみ付いて泣きじゃくった。

「ばか~折角、勇気出して、カッコよく、さよなら、しようと思ったのに~」
「俺は、さよならする気なんて、これっぽっちもないよ。何度だって“またな”って言うさ」

多駕は、私の大好きなゆるふわハグで抱きしめてくれ、びしょ濡れの私の顔には沢山のキスを落としてくれた。
私の恋人は、本当に優し過ぎてカッコ良くて、私に甘すぎる。