*優しい思惑*


「飼い主としてはペットが飼い主ロスで塞ぎ込まないか心配なの。ね、お姉ちゃんお願い、私の代わりに朔を構ってあげて?」
「・・・」

私の頼み事に、明らか、嫌そうな顔をするお姉ちゃん。
これは滅多に拝めないレア顔だ、脳内保存で記録した。

「結羽のお願いなら聞いてあげたいけど、それは難しい注文じゃないかな。藤堂君、結羽の事本当に慕ってるし、私が構った所で、その想いがどうこうなるとは思えない」
「そこはさ、お姉ちゃんの魅力で上書きして奪い取れば良くない?」
「人を悪女みたいに」
「なんたってお姉ちゃん、四葉女学園のクイーンに三年連続選ばれた実力の持ち主だもの。鈴野結衣に構って貰えて絆されない男子は居ないって」
「勝手にエントリーされただけ。お金持ちの綺麗なお嬢様が揃う四葉女で、普通家庭の私がもの珍しくて、投票しただけでしょ」

これが謙遜ならまだ良かったのに。
良い加減、自分の愛らしさがどれだけ人を魅了するのかに気付いてくれないかな。
けして妹の欲目ではない。
そして警戒心を養って貰いたい。
姉の将来が心配な妹としては、ますます番犬として、朔をお姉ちゃんの側に置いておきたくなる。

「そう難しく考えないでさ、少し朔の息抜きになってくれたら良いからさ、ね?」

返事を渋っていたお姉ちゃんだけど、長い葛藤の末、コクンっと頷いてくれた。
朔苦手、より、妹大好き、が上回ったらしい。
ちょっと優越感で嬉しい。

「ありがと、お姉ちゃん。あ、でも私との関係性は悟られないでね、朔には飼い主離れをして貰いたいんだから」
「結羽はそれで本当に良いの?」
「勿論」

お姉ちゃんはどうやら、私が朔を好きだと勘違いしている模様。
病弱を懸念し、朔の告白を断ったのだとでも思い込んでいるのだろうな。
確かに中学時代、野犬だった朔の事を放って置けなくて、お姉ちゃんに沢山相談していたから、そう思われても可笑しくはないのだけども。
恋愛に関しては、多駕一筋です私は。
でも、朔に嫉妬し、むくれるお姉ちゃんが余りにも可愛いので、あえて教える必要ないかなって思ってる。