*可愛い姉*


両親は私が小六、お姉ちゃんが中一の時に、買い物途中、飲酒運転に巻き込まれ亡くなった。
私達姉妹の行方をどうするか親戚同士で話し合った結果、父の妹の結空ちゃんが一緒に暮らしてくれると言う事で落ち着いた。
私だけでも病院のお世話になった方がいいという話も出たが、断った。
親戚の方々や主治医の先生は、私が大人になれない命なのを知っている。
なので、私の気持ちを優先してくれた。

お姉ちゃんや結空ちゃんに面倒を掛けてしまうこの選択が最善だったかは、今でも分からない。
残りの時間を、お父さんとお母さんとお姉ちゃんと暮らした大好きなこの家で、普通の日常を送りたいと言う私の思いも勿論あった。
けれどそれよりも、私の病院行きの話が出た時見せた、お姉ちゃんの強張る顔や、握った手から伝わる震えを感じたら、最後まで、寂しがり屋で可愛いお姉ちゃんの側に居なきゃなって、そう思ったの。


*****


中学二年の夏休み、リビングで寛いでテレビをみていたら、玄関からドタンバタンとお姉ちゃんが「ただいま」と帰って来た。

「結羽、今日ついにね、恋慕小岳散策中にお寺を見付けたの。ほら、此処に」

満面の笑みで、独特なセンスな絵を見せられた。おそらくは地図だろう。
お姉ちゃんは、頭も良いし運動神経も良い、大抵な事ならそつ無くこなすが、絵だけは少し残念な感覚を持ち合わせている。
お姉ちゃんにその自覚がないのが、また可愛くて楽しい。

「お姉ちゃん、流石だね。凄く画期的でわかり安い地図だと思う。その地図貰ってもいい?」
「良いけど、結羽は探しに行っちゃ駄目だよ。辿り着くのしんどい場所にあったから」

うん、正直、このスタート地点がどこかも分からない地図で探し行く勇気はないよ。
でも、お姉ちゃんが頑張って仕上げた作品だから、私の宝物にさせて貰うの。

恋慕小岳はその名の通り、恋愛にまつわる謂れのある森だ。
お姉ちゃんは何の目的があって、そのお寺を探しに恋慕小岳を散策してたのだか。
恋愛成就が目的じゃないのは確かかな。
そのお寺が、お姉ちゃんにとって、素敵な場所で有ります様に。とだけ、唱えさせて貰おう。

「こら結衣、帰ったなら、まず手を洗ってきなさい」

洗濯を取り込み終わった結空ちゃんに叱られ、お姉ちゃんは苦笑いし洗面所へと向かう。
お姉ちゃんが、今日も笑顔で元気いっぱいで嬉しい。

私の手元にある紙を覗き込む結空ちゃん。

「犬?熊?いや飛行機にも見えなくもないか」
「ん~なんだろうね」