*妹は姉が心配です*


夜。玄関から小さくパタリと音がした。
お姉ちゃんが、バイトから帰ってきたみたい。
女の子なんだから、夜間のバイトはしないで貰いたい。
お姉ちゃんはそろそろ自分の可愛さを自覚するべきだ。
以前、監禁されそうになった時も、人違いで~とか何とか、的外れな解釈を導き出していたし。
本当に、私の姉は世界一鈍くて可愛い。

トントンっと謙虚なノック音。
お姉ちゃんは帰宅後すぐ、私の部屋へと来てくれる。

「ただいま、結羽」

おかえり。
ごめんなさい、きちんと言葉交わしたいんだけど、今日はちょっと起き上がる事が出来ないみたい。
私の髪を、お姉ちゃんは優しく梳いてくれるのが分かる。
温もりに安心する。

「結衣、おかえり」
「ただいま。結空ちゃん先に寝てていいのに」
「偶然起きてただけよ。ねぇ結衣、少しバイト控えたら?せめて夜分は辞めない?女の子の一人歩きはやっぱり危険だと思う」

二人の会話に混ざりたいけど、体に力が入らないや。
私もお姉ちゃんに、夜間バイト禁止って伝えたいな。

「今日が駄目でも、明日見つかるかもしれない」
「え?」
「結羽を治す術が、明日なら見つかるかもしれない。その時に、お金がなくて直せないなんてそんな悲しい事、起こって欲しくないから」
「結衣」

諦め悪いな、お姉ちゃんは。
頑張っても、どうしようもない事なのに。
そんな事、賢いお姉ちゃんはとっくに理解している。
理解していても、必死で抗って、無駄な奇跡に縋ってるお姉ちゃんを、私は本当に愛おしく思う。
こんな可愛いお姉ちゃんを残して死んじゃうのが、心配で仕方ない。

「夜分は時給が上がるからお得なの。大丈夫だよ、私、足も早いし、護身術だって身に付けてるし、いざとなれば自分で対処出来る」
「監禁未遂された子の言葉なんて信用出来ません」
「防犯ブザーも持ってる、熊撃退スプレーだって持参してる」
「もぉ、頑固なんだから。じゃあ約束する事、頑張りすぎない事、そして警戒心を怠らない事、分かった?」
「うん、しんどい時や不安要素がある時はちゃんと報告する。心配してくれてありがと結空ちゃん。それと、何時も私達姉妹の面倒を見てくれてありがと」
「それは当然よ。兄さん達の大事なお子様達ですからね」

お姉ちゃん、お願いだから結空ちゃんを丸め込まずに、素直に言う事聞いて欲しい。
心配させられるこっちの身にもなれ。
どうせお姉ちゃん、弱音なんて絶対吐かないんだから。
昔からそうだった、いつも笑顔で回りに心配掛けない様にしてばかりで。
お姉ちゃんの涙を、私は見た事がない。

お姉ちゃんも恋人を作ればいいのに。
素直に泣けて、甘えられる場所を。
不意に頭を過ぎる、尻尾を振り回す健気なワンコ。
思い付いた案に、我ながら天晴と思ってしまった。