*あの日交わした約束は*


小学校の頃、体育の授業は何時も日陰で過ごした。
元気に走る皆がとても羨ましかった。

「結羽、隣いいか?」
「多駕?何してるの?」
「国語の授業だったけど、退屈だから抜け出して来た。此処でサボろうかと思って」
「先生に叱られるよ」
「サボってる事は先生の許可も得てる。成績落とさなきゃ親にも言いつけないから、思う存分、サボって来いと言われた」

私が一人で居る時、お姉ちゃんか多駕か、もしくは二人一緒に、自分のクラスの授業を抜け出して、私の側に居てくれる。
二人とも、昔から頭が良かったから、先生公認でサボりを許されていた。

「結衣とジャンケンして、今日は俺が勝った」

そう言って、得意げにカッコつけて笑う。
多駕のママとパパは教育熱心で怒らすと怖い、もし私のせいで多駕が叱られたらと思うと不安になる。
そんな気持ちが顔に出てたのか、多駕は私の髪を撫でながら言う。

「俺は、結羽の事が大好きで、俺が此処に居たくて居るんだから気にするな」
「ありがと、多駕。私も多駕の事好きだよ」
「だったら、大人になったら俺のとこに嫁に来てよ」
「大人・・・」
「そ、結羽が大人になったら結婚しよ。結羽を幸せにする権利を、俺に下さい」

守れない約束はしないと決めていた。
でも、嘘吐きになっても構わないと思ったの。
嘘を吐いても、多駕はきっと「仕方ないな」と笑って許してくれるから。

「浮気はしないでね」
「まかせろ」
「約束ね、多駕。大人になったら、多駕のお嫁さんにして」
「ああ、約束だ」

幼い頃の、無垢で純粋な約束事を、私は今だに大事にしている。