「いちゃつくなっ。俺だって可愛い彼女とデートしてぇよ。何でクリスマスに、ぼっち幽霊役をやんないといけないんだよ、此処、寒いし怖いしで」

どうやらイベント発生の様だ。
文句を垂れたブラックサンタの登場。
杉原さんは、何故かそのブラックサンタに「ご苦労様」と労いの言葉を述べた後、カイロを笑顔付きで手渡していた。
その瞬間、俺は嫌な予感を覚えた。
俺が言うのも何だか、彼女の作る笑顔は愛らしく、人をたらし込む魅力がある。
ブラックサンタの瞳に熱が加わり、俺を見据えて来た。

「青年!俺と彼女を掛けてトランプ勝負だ。俺が勝ったら、大人しく彼女を俺に引き渡して貰う。なぁに、悪い様にはしないさ。彼女と離れたくなければ、真剣衰弱で俺に勝て」

勝負を煽る為の台詞であって、本当に引き渡し希望って事はないだろう・・・たぶん。
彼女を物欲しそうに見ているブラックサンタに「余所見せずに、きちんと仕事を全うしろよ」と、言いたくなる。
さっさとトランプ勝負を終わらせて、不真面目なブラックサンタには退場して貰おう。
記憶力には自信がある方だ。
だてに偏差値が馬鹿みたいに高い双葉高校二年の首席の座に付いてはいない。

ものの数分で決着。
勝者、俺。
ブラックサンタは膝と手を付き、地面に項垂れている。

「俺の勝ち、潔く、彼女は諦めるんだな」
「せめて、彼女さんと握手だけでも」
「触んな、見るな。じゃ、俺達はこれで。良いクリスマスを」

ブラックサンタを置きざりに、出口を目指す。

「藤堂君、少し嬉しかったですよ」
「何が?」
「一応、藤堂君の都合を顧みず押し掛けてる自覚はあるんです。だからもしかしたら、ブラックサンタさんに引き渡して置いてかれちゃうのかなって」
「あのな、仮にも一緒に来てるんだぞ、しかも女の子を。置いて行く訳ないだろ。ま、少しは俺の都合も考えて欲しいって言うのはあるけ、ど」

なんだ、俺は言葉を何か間違えたか?
横の彼女を伺い見たタイミングが悪かった。
今にも泣き出してしまいそうな、嬉しそうに笑む彼女の横顔が目に止まる。
綺麗だ、と思った。
いつか、この笑顔の意味をも、知る時が来るのだろうか。