転任当初は若くてイケメンだと騒いでいた女性スタッフ達も、今では誰も彼のことを支持してはいない。いくら顔が良くても実績が伴わなければ、誰も付いてはいかない。瑞希自身も、こんなにボロくそに言われているイケメンを初めて見たし、過去最高に仕事の出来ない上司だと思っている。

 週明けで納品も無く、午前中は本社へ送る書類の準備をする時間もあったが、午後からは修理受付の来店が重なった。ゲリラ豪雨的な雨が降った翌日は、水没が原因の客が増える。店においている代替機の台数が心配になる程ではなかったが、修理センターへの発送待ちのケースはいっぱいになってしまった。それらを明日の朝一には出せるように準備をし終えた時、ようやく営業時間が終わった。

「台数、全然だったけど、めちゃくちゃ忙しかったー。瑞希はこれからお迎え?」
「うん。今日はギリギリ延長がつかなさそうで良かったわ」

 看板類を片付けると、バックヤードで私服に着替え終えた恵美と並んで、店を出る。イケメン店長は社用PCで他店の売上実績をチェックしていたので、まだ帰りそうもない。

 ショップの閉店時間は19時だが、ショッピングモール自体が閉まるのは21時。なので19時を過ぎても客足が無くならない日もある。子供を預けている保育園は20時を過ぎると延長料金が発生するから、どんなに遅くても19時半には店を出たいのが本音。

「子持ちには定時で帰らせようとか、そういう優しさは無いのか、あの店長は」
「吉崎店長、まだ若いから」
「でもさ、延長料金って自腹なんでしょう?」
「……まあね、仕方ないよ。会社はそこまでは持ってくれないしね」

 以前に居た店長は妻子持ちだったから、そういう気遣いにはとても長けていた。でも、シングルマザーを理由に特別扱いされるのも居心地が良くないと、瑞希なりにギリギリまで残るようにはしていた。店長が変わっても、最後まで仕事は終えてから退勤したいと、毎日閉店時間前はバタバタだ。

 ただ、延長料金が付く時間までの残業だけは勘弁して欲しいのが本音だ。実家にも頼れず、女手一つで子供を育てている身としては、余計な支出は増やしたくないのだ。