玩具が入ったカゴの中に頭から突っ込んで、お気に入りの物を一生懸命に探している拓也を見守りながら、瑞希は通園鞄の中身を選り分けていく。洗い物をかき集めて洗濯機に放り込み、ようやく夕飯の準備に取り掛かった。
 壁の薄いボロアパートだから、あまり遅くなると近所迷惑だから洗濯機も回せなくなる。空き部屋の多いアパートだけれど、壁が薄いから離れた部屋にも音漏れがひどい。夜干しするなら時間との勝負だ。

 手早く作り上げた夕飯を食べ終えて、子供をお風呂に入れる準備をしている時、テーブルの上に置きっぱなしにしていたスマホがメールの着信を知らせた。ホーム画面に表示されている伸也の名前に、瑞希は慌ててメールアプリを立ち上げる。

『連勤、おつかれさま。近い内に時間取れそうな日ある?』

 今日までが連勤だという愚痴メールを少し前に送っていたから、その労いの言葉に続けての次の予定のお伺いだった。
 相変わらず、二人の間の状況に進展はない。どうしても前へ進む勇気が出ない。伸也は瑞希の意志を尊重しようとしてくれるが、それが伸也の今の立場にとってどう影響があるのかが判断がつかないから。
 少し考えて、返信の文字を入力していく。

『明日の午後と明後日なら空いてる。その次だと、来週の木曜かな』

 シフト上は来週の火曜も休みにはなっているが、その日は木下七海が嘆いていた、エグい組み合わせの日。先輩として、都合がつくなら様子を見に行ってあげたいと思っているのだ。それもこれも、イケメンしか取り柄のない、仕事をしない店長のせいなんだけれど。

『じゃあ、明後日の朝に少し出られる? 早い時間になるかもだけど、迎えに行く』

 大丈夫とメールを送り返した後、洗濯機の終了を知らせるブザーが聞こえたので、狭いベランダに運んで手早く干していく。
 園で一日に何度も着替えさせてもらっているらしく、子供の服は小さいながらも結構な枚数がある。週末ならこれにお昼寝用の布団カバーも加わってくるから、二人暮らしなのに一度の洗濯では終わらないことも多い。

 休みの日くらいは朝もゆっくり寝たいところだが、どうせいつも通りの時間になったら否が応でも拓也から起こされるはずだ。乳幼児にとっては曜日なんて関係ない。毎朝、同じような時間に目覚めると、容赦なく暴れ始める。前日に疲れるまで動き回っていても、一晩眠れば完全回復できるのは子供の特殊能力だと思う。大人はそうそう簡単に体力は戻らないし、疲れはいつまでも引きずる。

 しかも、もし横で寝たふりを続けていようものなら、一晩中履きっぱなしだったオムツのまま顔の上に乗りあげてきたり、寝ている瑞希の周りに玩具を運んできて、すぐ耳元でガチャガチャと賑やかな音を立て始めたりするのだ。乳幼児は容赦ない。