7月に入ってから毎週末のようにイベントが続いたせいで、日曜の一時保育と、それ以外の曜日は漏れなく延長料金が発生する残業ばかり。不可抗力な支出が恐ろしいほどに膨れ上がっていた。特に人手の薄くなった平日の方が閉め作業に時間がかかることが多く、お迎えが遅くて心配した保育園から電話が掛かってくる日もあったくらい。ざっと計算しただけでも、翌月に支払う予定の延長料金で頭が痛くなってくる。

 夜道を自転車の立ち漕ぎで飛ばしながら、瑞希は拓也のお迎えにと保育園へ向かっていた。ショップの制服でもある膝丈のスカートが足に纏わりついて、まどろっこしい。がばっと裾をたくし上げたい願望を理性で抑えつつ、必死で自転車を漕ぐ。

 園を目指しつつ、冷蔵庫の中身を思い浮かべて夕飯のメニューと家事の段取りを考える。帰宅してから一瞬でもぼーっとしてしまうと、何もかもがズレ込んで翌日に響いてくる。気力が続く限りに動かないと、結局は睡眠時間を削ることになってしまうという、悪循環。

 これでも拓也の離乳食が後期に入ってからは随分と楽になった。味付けする前に取り分ければ、瑞希と同じ料理を食べるようになったし、拓也用に別に用意したり、食材をいちいち潰したり裏ごしたりする手間も無くなったのだから。冷凍室にぎっしりと離乳食用のお粥や野菜ペーストのストックを詰め込んでいた頃が懐かしくさえ思える。他に使い道が無さそうなくらい小さ過ぎるタッパー類をまとめて処分した日の感慨深さったらなかった。

 仕事を終えた後の同僚達が、勤務先のショッピングモール内の飲食店で食べて帰ったり、総菜をテイクアウトしたりしているのを横目に、瑞希はひたすら自炊の日々だった。コンビニなんて、いつから行ってないだろう。最後に入ったのは妊娠中にトイレを借りた時? オムツ替え台の無いコンビニは誘惑こそあれ、立ち寄る正当な理由が思いつかない。

 頭の中で、冷蔵庫の切り置き食材と今の気分とを照らし合わせて今晩の献立を決めると、ある種の流れ作業のように保育室から子供を回収し、ようやく帰路につく。今日も拓也が最期の一人だった。今月は同じ時間のお迎えにはどの保護者とも出会ってない気がする。
 そして1DKのアパートの玄関に着いてから、抱っこしていた拓也を下す為にしゃがんだ瑞希はそのまま動けなくなった。完全に油断してしまった。長めの連勤が続いていたせいか、一度曲げた脚が立ち上がるのを頑なに拒むのだ。7連勤の疲労が一気に襲い掛かってきた感じだ。

「はぁ……疲れたぁ」

 大きな溜め息と一緒に、弱音も吐き出す。そして、気合いを入れ直して荷物を抱えて立ち上がる。明日は久しぶりの公休日だ。しかも珍しく2連休。
 瑞希の休みが無かったということは、拓也だって休み無しに園通いしていたことになる。

 ――この2日間は、いっぱい遊んであげよう。