「俺としては今すぐにでも、三人で住みたいんだけどね。先に拓也とここに居てくれたら、安心かな」

 抱っこされながらもキョロキョロと部屋の中を見回していた拓也が、何かを見つけてモゾモゾし出したので床にそっと下ろしてみる。よちよちと歩み寄って行ったのは、リビングの壁際に置かれた50インチ以上もある大型TV。今の狭いアパートには存在しないが、保育園の大きい組の保育室にはあるので、1歳児でもそれが面白い物であることは知っているようだ。

 伸也がTVの電源を入れてあげるが、まだ昼を少し回った時刻だから幼児向けの番組は何もやっていない。それでも拓也は物珍しさからTVの前に張り付いて、時には興奮気味に画面を叩いていた。

「目悪くなるから、離れて見ようか」

 TV画面から引き剥がし、距離を置いた場所に座らせる。でも、気付いた時にはまたかぶりつきで見ているので、また引き剥がす。――TV前にベビーガードと呼ばれる柵を設置している家が多い理由がようやく分かった。

 家賃も光熱費も要らず、オートロックで駅も近い。しかも、職場があるショッピングモールへも二駅だから電車でも自転車でもどちらでも通勤可能。そして、徒歩圏内に拓也が入れそうな保育園もある。何より、家具家電付きで食洗機まで設置済。

 ――こういうとこって、24時間いつでもゴミ出しOKなんだろうな……。

 今のアパートはゴミ出しは朝8時半までというルールがあるが、野鳥等を理由に前日のゴミ出しは禁止されている。始業時間が遅めのショップ勤務としては通勤ついでに出すということが微妙に出来ず、ゴミの日には朝から出たり入ったりを繰り返さないといけないのが手間だ。

 考えても考えても、伸也の提案は魅力的でしかない。これこそ、夢なら覚めないでと叫びたいくらいだ。けれど、瑞希は不安気に眉を寄せた。冷静に考えると、素直に受け入れることができない。

「でも、大丈夫なの? 社宅で隠し子を囲ってる、みたいな構図になるけど」
「隠し子って……。そういうのは気にしなくていいから」

 瑞希が部屋の中を見て回っていると、いつの間にか拓也の隣に並んで座って、伸也も一緒にTVを見ていた。彼がスーツ姿でなければ、父子のただの休日の一コマみたいな光景だっただろう。

 隠し子――自分で言ってドキリとする。本来なら、再会した時点で認知して貰って入籍もしてしまえば良いだけの話。順番や時期がいろいろとズレはしても、普通に家族になればいいだけ。

 でも、彼は全国に支社を持つ大きな会社の代表に就任したばかり。血縁を重視した派閥によって担ぎ上げられた立場である彼には、その血を受け継ぐ子供の存在は足枷にならないだろうか。