イベント続きで慌ただしかったゴールデンウイークも終わり、徐々に暖かく過ごしやすい日が増えてきた季節。自転車のジュニアシートから子供を抱き下ろし、瑞希は拓也に被せていたヘルメットを外した。自宅から保育園までの短い移動時間だけでも、子供の髪はしっとりと汗ばんでしまっている。

「今日は何して遊べるのかな? 楽しみだねー」
「ぶっぶ!」
「ぶっぶ? そっかー、保育園も車の玩具、いっぱいあるもんね。いいねー」

 声を掛けながら我が子を抱き上げ、子供用の小さな通園鞄とお昼寝布団、着替え袋を肩に掛ける。そこまで重くはないけれど、荷物で足元が全く見えなくなるし、正直言って歩きにくい。保育園の駐輪場で出会った保護者も皆、同じように大荷物を抱えている。
 月曜の朝は特に荷物が嵩張るから大変だ。オムツが外れたらもう少し荷物も減るのだろうが、1才半でまだトイレトレーニングを始めたばかりの拓也には遠い話だ。小さな背に通園鞄を背負い、親と手を繋いで歩いている大きい組の園児のことを瑞希は目を細めて眺める。こうやって抱っこで登園するのも、今の内だけだ。

 大荷物でふらつきそうになるのを踏ん張って、どうにか教室の前に辿り着けば、後は先生にお任せ――という訳にもいかない。世の中そこまで甘くできてはいない。
 指定された棚に持って来た物を順に片付けて行き、換えのオムツを入れたビニール袋をトイレのフックに引っ掛けた。朝の用意が終わったら、子供と一緒にお帳面に出席シールを貼っていく。園で決められた朝の準備を全てこなさないと、この場から立ち去ることは許されない。

 帰りもまた同じように荷物を回収して回らないといけないし、お迎え時には丸一日分の使用済オムツで一杯になったゴミ袋も待っているのだ。園によってはオムツはまとめて処分してくれるところもあるらしいが、拓也の通う保育園は衛生上の何たらで保護者が持ち帰る決まりだった。

 一通りの朝の準備が済むと、子供が気付いていない内にさっと教室を出る。見つかってしまうと大泣きされるのが目に見えているからだ。万が一、泣かれてしまった時も優しく宥めている時間はないし、保育士さんに丸投げして逃げるように去るしかない。後ろ髪を引かれるとかいう悠長なことも言ってられないほど、瑞希には余裕はない。

 ――やばい、急がなきゃっ!

 駐輪場で自転車に飛び乗ると、勤務先を目指して猛ダッシュする。いつも朝礼に間に合うギリギリの時間になってしまうので、店で着替えている時間すら惜しい。いつの間にか、制服のまま通勤してしまうようになった。
 小綺麗な私服姿で送迎してくる他の保護者を羨ましがってる余裕なんて勿論無い。