「俺、正直見た目も良いし仕事もできるわで困ったことにかなりモテるんだわ。適当に彼女作ってやり過ごそうにも、相手がすぐマジになって結婚結婚うるせぇし、その点お前は俺に対する評価が低い。顔以外はな」

「自分で言うのね……」


そしてちゃっかり、私がこの人の顔面にだけは、御多分に漏れず見惚れていたことまで見抜かれていてちょっと恥ずかしい。

だ、だって、実際に顔だけはもう、めちゃくちゃ、めっちゃくちゃかっこいいんだもん。


でも!顔だけ。本当に顔だけで、頼まれたとは言え人妻と不倫もするし、女性をモノみたいに言うし、私はいくら見た目が良くてもこんな女の敵代表みたいな男、絶対に好きにならない。

それだけは断言できる。


「ま、そういうわけで。これはお互いにとってメリットしかない。俺は金には困ってねぇから、お前ひとりの生活費くらい片手間の収入で片付くし家事の手間も減るし、お前は一時的とは言え拠点をゲットして仕事も探せる。要は利害の一致ってヤツだ。悪い話じゃねぇだろ?」

「うーん……」


その事情を聞いた限りでは、確かにそう悪い話でもないように感じてくる。

ヤツには私を家に置くことに対する一定のメリットが一応ちゃんとあって、私も彼の言う通り、次の行動を起こすまでの一時凌ぎになる。(ぶっちゃけ悪い話どころか良い話でしかない)


だけど、だけどなぁ……。


「あー、でもひとつ、絶対譲れねぇ条件があんだけど」

「?」

「お前、何があっても俺のこと好きになるなよ。俺、好意持たれた瞬間、マジで気失せるタイプだから」

「……」


自意識過剰とも取れるその発言に、私の中にある何かの糸がぷつりと切れた。


「安心して!!頼まれても好きになんかならないから!!ただの家政婦兼、表面上だーけーの!彼女を演じる以外に、私があなたとそれ以上に接点を持つことは絶対にありません!!」

「おし、んじゃぁ交渉成立だな。お前どうせこの後も暇だろ?俺も今日は14時から半休で上がりだから、それまで近場のカフェにでもいれば?欲しい家具とかあるなら見ててもいいし、14時半にでも落ち合うか」


はっ……!

条件反射で放ってしまった自分の軽率な発言の責任と後悔が今になってじわじわと押し寄せてくる。


「ってやべ。これ以上お前と話してても一銭の利益も生まねぇしいい加減仕事戻らねぇと。あ、スマホ出して」

「……はい」


先ほどの自分の言動を思い返して呆然としていた私が言われたままに自分のスマホを差し出し「ロック解除して」指示通りにロック画面の認証を解除すると、彼は私からひょいとスマホを奪って、勝手にメッセージアプリのQRコードを読み込んでいく。


「よし。そんじゃ、終わったら連絡するわ。新宿からは出んなよー」


そのまま自分の言いたいことだけを一方的に言いつけて、軽い足取りで店内へと戻って行った。