「えー、改めまして、私、宅地建物取引士で新宿エリア統括マネージャー兼、本新宿駅前店の店長代理を務めてます逢崎紫苑(おうさき しおん)と申します」


席に通されるやいな、即座に自身の名刺を1枚差し出して私に笑顔を見せる彼――逢崎さんは、やはり思った通り、昨日の女性に何度も“紫苑”と名前を呼ばれて、愛を求められていたその人本人だった。


黒にほんのり藍色を混ぜたような、夜明けを思わせる青墨色の髪。

少し毛先を遊ばせたウルフカットは多分、彼レベルのイケメンでなければ到底顔が負けてしまいそうで、そうそう手を出せないシロモノだろう。


さらには、形の良い美しい眉と、筋の通った綺麗な鼻がバランス良く配置されていて。

少しだけ目じりの上がった、猫目で切れ長の二重まぶたには、自ずと視線が持っていかれる引力すら感じてしまう。


本当に、近くで見れば見るほど、うっとりとしてくるイケメンだ。



「…………」

「お客さん?おーい、大丈夫?」

「はっ!す、すみません!つい……!」


あまりの強すぎる顔面ぶりに、時間を忘れるほど字の通り見惚れてしまっていた私に、彼がふっと小さく笑いかける。


「そんなに俺の顔、その知り合いに似てた?」

「や、そういうわけでは……」


どうにか都合良く勘違いをしてくれた彼にほっと胸を撫で下ろし、私は改めて「よろしくお願いします」ペコリと頭を下げる。


「日生未來です」

「日生さんねー。色々書いてもらわないといけないものとかあるんだけど、その前にまずひとつ確認。うちの前で足を止めてたのは、この近くの物件を今急ぎで探してるってことでOK?難しそうな顔してたけど、何か訳あり?」


そう言って手元のノートPCをカタカタと打ち込む彼に、突然頭上から容赦のないゲンコツが落ちて来た。


「ぃでっ!!!」

「コラ逢崎!なーにお客様に馴れ馴れしくタメ口利いてんだ!店長が許しても、俺ぁ許さねぇぞ!」