「美怜、お疲れ!いやー、まさかの大みそかまで仕事ってな」

年末の休みに入ってから三日後の大みそか。
美怜はスーツを着て本社に出社した。

これからまた三人で、ルミエール ホテルの正月の飾りつけに向かうことになっている。

クリスマスの夜にあんなふうに別れて以来、成瀬と初めて会う美怜は、重い気持ちを引きずってなんとか執務室の前まで来た。

どうやって入ろう、どんな顔をすればいいのだろうとノックをためらっていると、エレベーターから降りた卓が近づいて来てホッとする。

「お疲れ様、卓」
「ん?なんか元気ないな。どうかしたか?」
「ううん。ちょっと休みボケかも。丸二日間、部屋にこもって誰ともしゃべってなかったから」
「ええ?!なんか不健康だな。じゃあ今日は元気に身体動かして、モリモリ働こう!」
「あはは!ポジティブでいいね、卓」

あの日から一人で悶々としていた暗い気持ちが、ふわっと軽くなる。

ようやく笑顔を作れたことに安心して、美怜は卓の後ろに控えた。

「お疲れ様でーす。富樫、参上いたしました!」

ノックのあとに大きな声を上げる卓に、「どうぞ」と中から返事が返ってくる。

「失礼いたします!」

まるで敬礼でもしそうな口調の卓に続き、美怜も「失礼いたします」と頭を下げて部屋に入った。

「大みそかまで悪いね。なるべく早く終わらせよう。早速行こうか」

成瀬はジャケットを手に立ち上がる。

うつむいたまま「はい」と返事をする美怜の横で、「では張り切ってまいりましょう!」と卓が意気揚々と言う。

「相変わらず車目当てなんだな、富樫」
「あ、バレました?」
「隠してもいないのに何を言う」

そしていつものごとくハイテンションの卓を後ろに、助手席に美怜を乗せて、成瀬はルミエール ホテルまで車を走らせた。