ウキウキと車に乗り込んだ卓は、ホテルへと向かう間、ひたすら陽気にクリスマスソングを歌い続ける。

うるさい!と成瀬が咎めても治まらず、諦めた成瀬は「クリスマスのロマンチックなムードなんてかけらもない」と嘆いていた。

ホテルに着くと倉本達に挨拶し、早速撤去作業に取りかかる。

営業時間を終えたブライダルコーナーやチャペル、ガーデンテラスやリース作りの会場から始めて、徐々にレストランやショップ、最後に館内のフォトスポットとロビーの飾りを撤去した。

クリスマスツリーだけは、朝チェックアウトのお客様の為に残しておくのだという。

セッティングとは違って撤去作業はあっという間に終わり、たくさんの家具を積んだトラックを見送ると、最後に倉本に挨拶した。

「以上で作業は完了です。次回はお正月の装飾に年末お邪魔いたします。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。クリスマスなのにありがとうございました。お部屋をご用意したかったのですが、あいにくクリスマス当日は難しく…」
「いえいえ、そんな!お気遣いなく。前回だけで充分です。それではこれで失礼いたします」

三人はお辞儀をして倉本と別れ、地下駐車場へ向かう。

「先に結城さんのマンションまで送るよ」
「はい、ありがとうございます。本部長」

卓と並んで歩きながら、美怜はそっと卓にプレゼントの包みを手渡した。

「ん?何これ」
「クリスマスプレゼント。大したものじゃないんだけど、気持ちだけ」
「お、ありがとう!俺もなんか用意してくれば良かったな」
「ううん。誕生日にプレゼントくれたじゃない。嬉しかった。それにあのメエメエ、すっごくあったかいの!もうメエメエなしでは寝られないわ」
「ははは!名前までつけて愛用してくれてるんだ。良かったよ、気に入ってもらえて」
「うん。ありがとね」

二人の会話を背中で聞きながら、成瀬は頭の中に色んなハテナが駆け巡っていた。

(な、なんだ?結城さん、富樫にだけクリスマスプレゼントを?しかも誕生日って?結城さん、誕生日だったのか?富樫が贈った誕生日プレゼントを、結城さんは気に入ってて。なんだ?メエメエって。富樫は何を贈ったんだ?)

気にはなるが、気軽に聞ける雰囲気でもない。

二人は自分の背後で楽しそうに会話している。

(やっぱり俺とは違うよな。二人は歳も同じで気が合う親友同士。上司と部下では大きな壁がある)

成瀬は一人取り残されたような寂しさを感じていた。