ロッカールームで制服に着替えていると、バタン!と勢い良くドアが開いて佳代が入って来た。

「先輩、おはようございます。早いですね」
「みみみ美怜!さっきのは何?」
「は?さっきのって?」

鼻息荒く近寄って来る佳代に後ずさりながら、美怜は怪訝な面持ちになる。

「私ね、裸眼で視力が2.0あるの」
「へえ、すごい!…って、え?それがどういう?」
「だからね、見えちゃったのよ!遠くに見えるミュージアムのエントランス。そこに颯爽と現れた一台のスポーツカー。そして助手席から降りるスーツ姿の美怜を!」

ああ、なんだ、と美怜は気が抜けた。

「なんだって何?誰なの?あのスポーツカーの人は」
「本部長です」
「ほ、本部長?!」

佳代は驚きのあまり大きく仰け反り、後ろのロッカーにビタン!と身体を張りつける。

「大丈夫ですか?佳代先輩」
「だ、大丈夫じゃない。全然、全く」
「えっ、どこかぶつけましたか?肘とか?」
「ね、ちょっ、美怜。落ち着いて聞かせて。ね?」
「私は落ち着いてますけど…」

すると佳代は美怜の手を取り、ドレッサーの前の椅子に座らせた。

そのまま美怜の前にひざまずき、スーハーと息を整えると、佳代はゴクッと生唾を飲んでから口を開く。

「美怜、まさかとは思うわよ?美怜に限ってそんなはずは…って。だけど、一応、念の為、参考までに聞かせて」
「はい、何でしょう?」
「美怜。夕べ本部長と、その…。ひと晩一緒にいたの?」
「はい。ホテルに泊まりました」

ガタガタッと佳代が床に座り込んで椅子をなぎ倒すのと、ガチャッとドアを開けて入って来た美沙達数人が固まるのとが同時だった。