「ホテル館内の装飾は十二月一日に一斉にクリスマスの飾りつけがされるそうです。クリスマスツリーは本館とテーマを合わせて先方が既に手配済みとのことですので、私達はフォトスポットの設営とクリスマスリース作りの体験イベント、チャペルのクリスマスコンサートの日の装飾を主にプロデュースしたいと思います」

今日も本部長の執務室で三人、ルミエールに関する打ち合わせをしていた。

美怜は、先方から送られてきたクリスマスツリーや飾りの写真を参考に、それに似合いそうな雑貨や家具をチョイスしてバーチャル画像をいくつか作っておいた。

「クリスマスツリーがオーソドックスなデザインでかなり大きなものですので、その周りをダークブラウンのアンティークシリーズの家具でまとめるのはどうでしょうか?チェストやラグマット、ロッキングチェアなど」

美怜が表示する画面を見ながら、卓も成瀬も頷く。

「うん、いいと思う。ヨーロッパの温かい家庭の雰囲気だな」
「はい。他にもフォトスポットはいくつか設置する予定ですが、そちらは明るいイメージにしたいと思います。リース作りの会場は、リースに合うように部屋全体をコーディネートします。チャペルはホワイト一色で勝負するか、カラフルで華やかにするか、先方にうかがってから決めたいと思います」

分かったと成瀬は頷き、別の資料をめくる。

「客室のリニューアルについてだが、実際に部屋を変えていく作業は年明けの一月中旬から取りかかることになった。一斉にではなく、徐々にできる部屋から変えていく。目安としては、カップル向けの部屋はバレンタインまでに終えられるよう最優先する。次にファミリールーム。テーマやカラーに合わせた部屋ごとに作業していく。三月半ばのホワイトデーまでに全ての部屋のリニューアルを終え、ホームページを更新。以降はテーマに合わせた客室をお客様が選んで、予約していただくシステムになる」

最後に成瀬は顔を上げて二人を見た。

「館内の装飾については結城さん、客室のリニューアルについては富樫に仕切ってもらいたい。私はレストランの件を進めていく」
「承知しました」
「よろしく頼む。特にクリスマスまでは時間があまりない。先方の担当者とも密に連絡を取り合い、その都度我々とも共有して欲しい」
「はい、かしこまりました」

美怜と卓が声を揃えて返事をすると成瀬は頷き、資料をテーブルに置いてから腕時計に目をやった。

「思ってたより早く終わったな。二人の事前準備のおかげでスムーズに打ち合わせできた。どうだ?外でランチでもするか?」

いいんですか?と卓が前のめりになる。

「成瀬さん、今日も車ですか?」
「そうだけど、ってまたか!お前はもう…」
「違いますって!俺が関わってるコンベンションセンターに本格フレンチレストランが入ってて。景色も綺麗だから一度参考がてらに行ってみたかったんです。どうですか?」
「いいけど。本当にそれが目的か?車じゃないよな?」
「違いますよ。まあ、あの車で行けたら気分も最高潮でいいかな、なーんて!」

なにが、なーんて!だよと呆れてから、成瀬は美怜を見た。

「結城さんもそこでいい?」
「はい。私もあのコンベンションセンターのことはずっと気がかりでしたので、その後の様子をうかがいがてら行ってみたいです」
「邪心のない模範解答だ。お前とは違うな、富樫」

だが卓は既にいそいそと荷物をまとめ始めて、ろくに話を聞いていない。

「富樫…。お前さ、早く彼女作ったら?その熱烈な好き好きオーラを彼女に向けてやった方がいいぞ?」

小言を言いながら、成瀬は内線電話をかけ始めた。

「成瀬です。これから外に出ます。次のアポまでには戻るのでよろしく」

秘書さんにかけているのかな?と美怜がぼんやり眺めていると、手短に通話を終えた成瀬はハンガーに掛けてあったジャケットを着る。

「じゃあ行こうか」
「はい!よろしくお願いします!」

小学生のように元気良く返事をした卓が、満面の笑みでドアを開けて成瀬を振り返る。

はあ、と大きくため息をついてから、成瀬は美怜を先に促して部屋を出た。