「美怜、お疲れ」

本部長の執務室がある階でエレベーターを降りると、ちょうど隣のエレベーターから卓が降りてきた。

「卓、お疲れ様。営業部の仕事の方は平気なの?忙しくない?」
「ああ。新規の案件は別の先輩に割り振ってもらってるんだ。しばらくはルミエールをメインにやらせてもらってる。美怜こそ、ミュージアムの方は大丈夫なのか?」
「うん。秋は比較的落ち着いてる時期だからね。それに頼もしい先輩達がいるから、私が抜けたところで全く問題ないよ」

そんな話をしながら執務室の前まで来ると、一呼吸おいてからドアをノックする。

「どうぞ」

中から成瀬の声がして、美怜達は失礼いたしますとドアを開けた。

「お疲れ様。ちょっとソファで待っててくれる?」

はい、と短く答えた美怜は、成瀬のすぐ隣にスーツ姿の知的な雰囲気の女性が立っているのに気づいた。

椅子に座った成瀬に寄り添うように身を屈め、二人で同じタブレットに目を落としている。

小声で何やらやり取りをすると、それでは失礼いたします、と成瀬にお辞儀をしてから女性はドアへと向かう。

美怜達も立ち上がって、お疲れ様ですと頭を下げて見送った。

(仕事ができるキャリアウーマンって感じ。成瀬さんと同じくらいの年齢かな?あんなに高いピンヒールを履いて、足が痛くなったりしないのかしら)

ドアが閉まってもしばらくじっと見ていると、成瀬が席を立ってソファに近づいて来た。

「どうぞ、座って」
「あ、はい。失礼いたします」

成瀬は二人の向かい側に腰を下ろすと、両膝に肘を載せて口を開く。

「先方と来週もう一度会うことになった。今度は我々がホテルに赴いて、アネックス館を案内してもらう。その時にある程度納得していただけるアイデアを提示したい。今日はそれを詰めていこう」

はい、と頷いて、早速それぞれ資料を開いた。