「いらっしゃいませ。本日はお忙しい中、メゾンテール ミュージアムへようこそお越しくださいました。わたくしは本日皆様をご案内させていただく、株式会社メゾンテール 広報部の結城と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

十一時ちょうどに卓と共に現れたスーツ姿の男性五人に、美怜はにこやかに挨拶する。

「ではまず初めに、弊社の歴史からご案内いたします。こちらへどうぞ」

そう言って入口を入ってすぐの場所にある、横長の大きな年表の前まで案内した。

「弊社の創業は百年以上前に遡ります。きっかけは、文明開化の波に乗り、欧米の貿易商が自分達の住まいとして建てた洋館を、創業者が目の当たりにしたことに始まります。着物から洋服へ、和室から洋室へと日本も主流が変わっていく。そう確信した創業者が、外国の家具や雑貨を輸入しようと会社を興しました。当時の社名は、創業者の名字を取って『小倉貿易』でございました」

すると五人の中で一番年輩の男性が、そうだったんだ!と声を上げる。

「知ってるよ、小倉貿易。昔は結構有名だったよ。まさかメゾンテールの前身だったとはなあ」

美怜は笑顔で頷く。

「ありがとうございます。昭和の半ば辺りまでは業績も良く、皆様にご愛顧いただいておりました。ですがオイルショックが引き金となり、業績は一気に落ち込んだのです。その後起死回生を図って、創業者の孫が国産の家具の製造、販売を始め、少しずつ業績も回復していきます。それに伴い、貿易の会社から家具やインテリアのメーカーへと様変わりし、社名を変更いたしました」
「なるほどねえ。新しい社名を『小倉家具』にしなかったのはどうして?」
「はい。その頃はもう事業承継は行っておらず、小倉の子孫は社内には誰もおりませんでした。ですので社名から小倉は外すことになりましたが、創業者の想いは社訓としてわたくし達も日々心に刻んでおります」

そう言うと美怜は、年表に書かれた会社のロゴマークを指し示した。

「こちらは現在使用している弊社のロゴマークでございます。丸の中に木が描かれたデザインなのですが、この丸は地球を表しています。社名にある『テール』という単語も、フランス語で地球を意味します。我々は地球という大きな住まいの中で生きている。一つの住まいに暮らす命として、人々も動物も植物も、尊重し合うべきだ。そして、大切な住まいである地球をいつまでも守っていこう。その想いから、弊社では家具を作る為に使った木と同じ数だけ、植樹する活動を続けております」

そうなんだね、と、美怜の話に五人は神妙に頷く。

その様子を少し離れたところから見守っていた成瀬もまた、心を打たれていた。