「課長から聞いたと思うが、二人には私の仕事を手伝ってもらいたい。具体的には、ルミエール ホテルのリニューアルに伴うアネックス館の全面プロデュースだ」

真剣な表情でスケールの大きな話をされ、なんとも言えない緊張感に、美怜は思わずゴクリと喉を鳴らす。

「ルミエール ホテルとは、私が営業部にいた時におつき合いが始まってね。その時の担当の方から直々に依頼を受けた。まずはお互いの意思確認やイメージの相違がないか、プレゼンを兼ねて顔合わせをすることになっている。だが私は既に営業部を離れているから、現役の営業担当として富樫くんにお願いしたい。そしてプレゼンには、うちのミュージアムを見ていただきたいと思っている。その案内を結城さんに頼みたい」

卓の「はい」という返事と、美怜の「はい?」という言葉が重なる。

「なんだ?富樫くんは頷いてくれるが、結城さんは違うのか?」
「いえ、その…。なぜ私がそのような大役を任されるのか、不思議でして」
「何も不思議ではない。君の案内ぶりを見て任せたいと思った。それだけだ」
「ですが、本部長が自ら関わっていらっしゃる大きなお仕事で、私が足を引っ張る訳にはまいりません。経験豊富な先輩方にお願いするべきかと存じます」

シン…と静けさが広がり、美怜はますます身を固くする。

「君は、私の目が節穴だと思ってるってこと?」
「ま、まさかそんな!とんでもない」
「それなら引き受けて欲しい。私は自分の感覚を信じている。この件は富樫くんと結城さんに任せるのが最善だと判断した自分をね」

そう言われては何も返す言葉がない。

美怜は、ちらりと隣の卓を見た。
卓は真剣に力強く頷いてみせる。

美怜はもう一度成瀬に尋ねた。

「あの、本当に私で大丈夫なのでしょうか?」
「それはまだ分からない。上手くいくかもしれないし、そうでないかもしれない。だが私は、この三人ならどんな結果になっても後悔しない。それに根拠はないが、この三人なら必ず良い結果になると確信している」

真っ直ぐに真剣に見つめられ、美怜は心が吸い寄せられるような気がした。

(信じてみたい、この人の言葉を。大きな仕事に、一緒に挑んでみたい)

不思議と気持ちが落ち着き、安心感に包まれる。

美怜は決心すると大きく頷いた。

「かしこまりました。精一杯やらせていただきます」

成瀬は頬を緩めて頷く。

「よろしく頼む。三人で力を合わせて取り組もう」
「はい!」

声を揃えて頷く美怜と卓に、成瀬も大きく頷いてみせた。