「もしもし、株式会社メゾンテールの成瀬でございます」
「あ、成瀬さん!お久しぶりです。ルミエール ホテルの倉本でございます」
「倉本さん、ご無沙汰しております。お元気でいらっしゃいましたか?」

懐かしさに、二人とも声のトーンが上がる。

今は副総支配人をしているという倉本に、昇進のお祝いを述べると、「成瀬さんこそ!」と返事がきた。

「その若さで本部長ですって?すごいじゃないですか」
「いえいえ。まだ名ばかりで中身が伴っておりません。日々精進しなければと、気を引き締めております。ところで本日はどういったご用件でしょうか?」
「おっと、肝心の話を忘れていた。実は先週偶然ニュースで、新しくできたコンベンションセンターのオープニングセレモニーの様子を拝見しました。色んなテーブルコーディネートが紹介されていて、センスいいなあと思っていたら、メゾンテールさんの社名がテロップで流れてきて成瀬さんのことを思い出したんです」
「そうでしたか。それは大変光栄です」

成瀬もそのテレビ放送はチェックしたが、ミュージアムチームが直接現地に赴いて作業したとあって、かなり良い仕上がりだと感心していた。

「それでね、成瀬さん。実は当ホテルのアネックス館を全面リニューアルすることになりまして。そのプロデュースを成瀬さんに一任したいと思ってるんです」

えっ!と成瀬は突然の依頼に驚きを隠せない。

「私に、でしょうか?」
「ええ。かつてうちのホテルはあなたに救われました。今回も是非、あなたの手腕に任せたいと思いましてね」
「いえ、あの、倉本さん。それは買いかぶり過ぎです。それに私はもう営業部の人間ではありませんし」
「もちろん承知しています。あなた一人に全てをお願いするのではなく、舵取りをあなたにお任せしたい。どうでしょう?メゾンテールさんに、当ホテルの客室プロデュースをお願いできませんか?」

成瀬はしばし考えを巡らせる。

ルミエール ホテルは、今や都会の中央に位置するラグジュアリーなホテルとして知名度も高い。

昔からある本館は、今も成瀬が取り入れたメゾンテールの高級ベッドを使用しており、年齢層が上の方のお客様に根強い人気だ。

対してアネックス館はモダンスタイルで、料金設定もリーズナブルになっている。

ルミエール ホテルを再び手がけられるのは、メゾンテールにとっても喜ばしく良い宣伝になる。

だが、ここで即答するには話が大き過ぎた。

「倉本さん、大変光栄なお話をありがとうございます。是非ともやらせていただきたいのですが、ご期待に添えられるかどうか、一度じっくりお話を聞かせていただけませんか?」
「もちろんです。実は成瀬さんにお願いしたいと私が提案したところ、弊社の社員が御社について詳しく知りたいと申しておりましてね。プレゼンを兼ねて、一度顔合わせの場を設けていただけませんか?」
「かしこまりました。よろしくお願いいたします」

詳しいスケジュールはメールでやり取りすることにして、通話を終える。

成瀬は受話器を置くと、早速この案件を誰に手伝ってもらうかを考え始めた。