「かんぱーい!」
「お疲れ様ー!」

美味しいと評判の多国籍料理の店に行くと、まだ少し早い時間だったからか個室に通された。

大きな仕事を終えた充実感から、皆はひたすらお酒を飲んで楽しく盛り上がる。

二十代の男女が集まれば、話はやはり恋愛についてだ。

「ねえ、何度も聞くけど。ほんとに美怜と卓くん、つき合ってないの?」
「つき合ってませんよ。佳代先輩、何回目ですか?その質問」
「だって信じられないんだもん。仕事中も、なんかすごい連携プレーするじゃない?目配せだけで相手の意図が分かって、ササッとフォローするしさ。あうんの呼吸って言うか、もう熟年夫婦みたい」

ゴホッ!と、美怜と卓は同時にビールにむせる。

「ほら、今も息ぴったり」
「ビールにむせるのに息ぴったりも何もないですよ」
「ほんとにつき合ってないの?ただの友達ってこと?」
「はい、つき合ってません。でもまあ、卓は友達の中でも気が合う方なので、単なる友達というよりは、親友かな?」

美怜は枝豆をつまみながら軽くそう言う。

「美怜、本気で異性の親友が存在するとでも思ってる?」
「な、なんですか?美沙先輩。急にそんな真顔で…」
「男女間の友情は成立すると思うよ。私も実際、男友達はいる。けどね、そこから更に仲良くなったら親友にはならない。一線超えちゃうのよ」

いっ…?!と、美怜は固まって息を呑む。

「あら?顔が真っ赤。もう美怜ったら、いつまでお子様なのよ。もう二十四でしょ?」
「そ、そうですけど、だからって、その…」
「ま、楽しみにしてるわ。美怜と卓くんは、果たして親友になれるのかどうか?ってね」

そして話題は、今彼氏がいるメンバーの話に変わっていく。

社内恋愛中の二十八歳の先輩は、誕生日に彼からプロポーズされたらしく、皆は色めき立ってその話に聞き入っていた。

(異性の親友か…。私は本当に卓は親友だと思ってるけどな。同期の中でも一番相談しやすいし)

美怜はビールを飲みながら、先輩達の話をにこやかに聞いている卓をぼんやりと眺める。

先輩達には今まで彼氏がいたことがないと思い込まれている美怜だったが、実は高校生の時に少しだけつき合っていたことがある。

だが、あることがきっかけで別れることになり、それ以降も男性に対して苦手意識が芽生えてしまった。

大学生や社会人になってから何度か告白されたが、その苦手意識のせいで全て即座に断っている。

そんな美怜にとって、卓だけは自然に話せる唯一の男友達だった。

(恋愛感情が全くないから、卓とは自然体で話せるのかな。この先もずっと変わらない関係でいたい。あ、もちろん卓に彼女ができたら距離を置くけどね)

彼女ができたら知らせてと、今度改めて卓に伝えておこうと美怜は思った。