「あ、美怜!良かった、今連絡しようと思ってたんだ」

五階まで上がり、会議室へ向かおうとすると、前方から卓が歩いて来た。

「タブレット忘れていっただろ?次に会議室に入った人が、予約表見て内線くれたんだ。はい、これ」
「ありがとう!良かった…」

タブレットを受け取った途端、美怜の目に涙が込み上げてきた。

「え!美怜?ちょっと、どうしたんだよ?」
「分かんない。なんか、ホッとしたら急に…。ごめんね」
「いや、そんな。謝らなくていいから」
「うん、ごめん」
「そんなにタブレットが心配だったのか?悪かったな、俺も気づかなくて」
「違うの、そうじゃなくて。ほんとにごめんなさい」
「美怜…」

懸命に涙をこらえながら、指先で目元を拭う美怜に、卓は言葉を失う。

「一体どうしたんだ?こんな美怜、初めて見る。何かあったのか?」
「ううん、何もない。ごめん、もう行くね。ありがとう」
「ちょっと待った!」

そそくさと立ち去ろうとする美怜の腕を、咄嗟に掴んで引き留める。

「俺、午後から外回りなんだ。昼休み終わったら直行にするから、その前にミュージアムまで送る。オフィスにカバン取りに行くからついてきて」
「え、あの…」

戸惑う美怜の手を引いて卓は営業部のオフィスまで行き、ホワイトボードの名前の横に【外回り】と書き込んでから、カバンを手に戻って来た。

「じゃ、行こうか」

二人はエレベーターでエントランスまで下りた。