「はあ…、どれも素敵。お姫様の衣装部屋みたい」

ずらりと並ぶ色取りどりのドレスに、美怜はうっとりしながら迷う。

「これ可愛い!けど、本部長のイメージとは違うし…」
「美怜、自分が本当に気に入ったドレスを選んで。俺がどうとか、関係ないよ。美怜はそのままの美怜が一番いいんだから」
「はい。じゃあ、これでもいい?」
「もちろん。美怜に似合うと思うよ」

するとスタッフが、お召しになってみませんか?と美怜を試着室に案内した。

成瀬がソファに座って待っていると、「うわっ、ちょっと、これ」と美怜の戸惑った声が聞こえてくる。

どうしたのかと首をひねっていると、
「無理無理ー!これはだめ」
「よくお似合いですから、お連れ様にも見ていただきましょう」
と、どうやら美怜とスタッフが押し問答を繰り広げているらしい。

「美怜?着替えられた?」

成瀬は立ち上がって声をかけてみた。

「あ、それがですね。お見せする程のものではございませんでしたので…」
「は?何を言っている?いいから早く出ておいで」

成瀬の言葉に、味方ができたと思ったのか、スタッフがカーテンを内側から一気に開ける。

目の前に現れたドレス姿の美怜に、成瀬は目を見張った。

ワインレッドの鮮やかなドレスは、鎖骨と肩のラインが綺麗に見えるオフショルダーで、美怜のすらりと長く白い腕がよく映える。

身体のラインに沿ってウエストも絞られており、丈はロングなのだがスリットが入っている為、左足が太ももまでちらりと覗く。

「ちょ、ちょっとこれ、色々だまされちゃって。胸元のふわふわした赤いバラが可愛いなって思ったのに、こんなに肩と背中が見えちゃうし。丈も長いから安心してたら、まさかのスリットで…」

美怜は困ったようにうつむいているが、成瀬はもう目が釘づけだった。

「美怜…、なんて綺麗なんだ」

そう呟くと、そっと美怜に手を差し出す。

美怜がおずおずと手を重ねると、成瀬は一気に自分の腕の中に引き寄せた。

ウエストに手を添えると艶めかしいラインが伝わってきて、やばい!と手を離す。

(これは二人切りの時に着て欲しい。うん、絶対これがいい)

美怜のなめらかな肌は、首筋から肩先までをスーッとなでたくなる程色っぽく、胸のギリギリまで露わになったデコルテも美しい。

「本部長、やっぱりこれって結婚式には向いてませんよね?」

そう言われてハッとする。

(そうだ、デートのドレスじゃなかったな)

頭の中が燃え上がっていた成瀬は、ようやく現実に戻った。

「確かに。結婚式は冬だし、これだとちょっと寒そうだな」
「寒いのは、まあホテルの館内だから大丈夫ですけど、肌の露出が多いのがだめです」

それもそうだし、何よりこんなにセクシーな美怜を誰にも見せたくない。
だが二人切りの時は絶対この美怜がいい!

心の中で叫ぶと、成瀬は、よし、と頷く。

「美怜、これは結婚式前日にホテルのディナーの時に着て。俺の前でだけ着て欲しい」
「はい?そしたら、結婚式は?」
「別のを買おう」
「ええ?!」

目を丸くする美怜に構わず、成瀬はまたドレスが並ぶショーケースの前に行く。

「もう一着は、可愛らしい雰囲気のドレスがいいな。美怜、これとかどう?」
「いや、あの。本当に二着買うの?」
「もちろん。ほら、こっちも試着してみて」

スタッフが嬉しそうにドレスを手にして、美怜をもう一度試着室に促した。

着替え終わった美怜に、成瀬は思わず目尻を下げる。

「うん、可愛いな美怜」

今度のドレスはアイスブルーのフレアドレス。

膝下までくるスカートは、生地を贅沢に使ってふんわりと広がる。

胸元はハートシェイプ、袖はオーガンジーで軽く手首まで覆う、フェミニンな印象のドレスだった。

「これにしない?美怜。よく似合ってて可愛いよ」
「えっと、そう言ってもらえるなら…。これにします」
「ああ。それじゃあ、俺もこのドレスに合わせて選んでもらうよ」

スタッフは嬉々として成瀬の衣装を見繕う。

ネクタイとチーフを美怜のドレスの色に合わせ、二人で並んだ時のバランスを考えながらコーディネートしてもらった。

美怜の靴やバッグ、髪飾りやアクセサリーまで全て揃えて購入する。

「こんなに大ごとになるなんて…」と呟く美怜の隣で、成瀬は満足そうな笑顔を浮かべていた。