「んまあ!稀に見る美男子じゃないの。美怜、あなた本当にこの殿方に求婚されたの?」
「おばあ様ったら…」

美怜は呆れたように笑い出す。
いつの間にかいつもの見慣れた美怜に戻っていた。

「相変わらずイケメン好きなのね、おばあ様」
「それはそうでしょう?見目麗しい方に心がときめくのは、いつの時代も変わらないものよ」
「私は見た目で好きになった訳じゃありませんからね。お人柄に惹かれて、この人ならって結婚を決めたの」
「でもかっこいい人に愛をささやかれるから、余計にときめくのよ」
「はいはい。おばあ様のイケメン好きはよく知ってます」
「美怜。はい、は一回です」
「はーい」

成瀬は会話についていくこともできずに、ひたすら身を固くする。

「本部長、すみません。祖母は昔から気が強くて厳しくて…」
「美怜!その殿方に私のことを悪く言うのは許しませんよ」
「本当のことではありませんか。それにこの方は私の恋人です。おばあ様には渡しませんからね」

美怜!と鋭い声が飛んできて、成瀬はヒエッと首をすくめた。

「もう行きましょう、本部長」

美怜に促されてようやく成瀬は我に返る。

「いや、きちんとご挨拶させて」

そう言うと成瀬はもう一度両手をつき、頭を下げた。

「改めてご挨拶させていただきます。美怜さんと同じ会社に勤める成瀬と申します。この度は美怜さんとの結婚をお許しいただきたく、お願いに上がりました。おばあ様におかれましても、大切な美怜さんを私のような若輩者に嫁がせるのは大変ご心配かと存じます。まだまだ半人前の私ですが、美怜さんを愛する気持ちは誰にも負けないと自負しております。どうか私と美怜さんの結婚をお許し…」

そこまで言った時、キャーッと裏返った声がして、成瀬は思わず顔を上げる。

「あ、愛するだなんて、そんなストレートに。もう心臓がバクバクよ」
「おばあ様、それはお年のせいでは?」
「美怜!あなたは黙ってなさい。せっかくの良い気分が台無しではないの」
「おばあ様。愛されているのは私です」
「美怜!少しくらい夢見させてくれても良いではないの」

成瀬はもう、何も口を挟めなくなる。

(美怜の気が強くて頑固な性格のルーツ、ここにあり)

二人のやり取りを聞きながら、成瀬は妙に納得していた。