賑やかにお寿司を囲みながら、成瀬はようやくホッと胸をなで下ろす。

美怜の父も母も終始笑顔で美怜の子どもの頃の微笑ましいエピソードを話し、成瀬は幼くて可愛い美怜を想像して目尻を下げていた。

とそこへ、かすかに車のエンジン音が聞こえてきた。

「あ、おばあ様お帰りかな?」

美怜が呟き、成瀬は思わず真顔になる。

(お、おばあ様?おばあちゃんじゃなくて?)

聞き間違いか?と思っていると、美怜が話しかけてきた。

「本部長。祖母にも結婚の報告をしに行っていいですか?」
「ああ、もちろん」

真剣に頷き、美怜と一緒に部屋を出る。

ひのきの良い香りがする長い廊下を歩き、築山が美しい中庭をガラス越しに見ながら通り過ぎると、ようやく和室のふすまが現れた。

「ここです」

美怜は成瀬を振り返ると、その場でスッと跪座をした。
成瀬もすぐに従う。

「おばあ様、美怜でございます」

凛とした雰囲気をまとう美怜を、成瀬はまじまじと見つめる。

これが本当に美怜?
誰かと入れ替わった?

そう思っていると、少し間を置いて中から低く張りのある声がした。

「入りなさい」
「失礼いたします」

美怜は左手を引手にかけてふすまを少し開くと、スッと親骨に沿って手を下に下げてから、身体の中心までふすまを開ける。

次に右手に代え、手がかりを残して身体が入る程度まで開けた。

跪座から正座に座り直し、失礼いたしますと一礼してから視線を下げたまま入室する。

「おばあ様、ご無沙汰しております。本日は結婚のご報告に参りました」

美怜は成瀬を振り返り、小さく頷く。

ゴクリと唾を飲み込み、成瀬も「失礼いたします」と一礼してから挨拶した。

「突然の訪問、失礼いたします。初めまして、私は成瀬 隼斗と申します」

そこまで言って様子をうかがうと、「どうぞ、お顔を上げてください」と、ゆったりした口調で言われる。

「はい、失礼いたします」

静かに顔を上げた成瀬の目に、和室の奥に広がる見事な日本庭園が飛び込んできた。

(す、すごい…)

思わず目を奪われていると、手前に正座していた和風姿の品の良い年輩の女性が、驚いたように目を見開いているのに気づいた。