掘りごたつになっている大きな木のテーブルがある和室に通され、成瀬は改めて挨拶すると手土産を差し出した。

「ご丁寧にありがとうございます。さあ、どうぞ足を楽にしてくださいね」
「はい、ありがとうございます」

まずはお茶でも、と四人で喉を潤しながら話をする。

モモは美怜にがっちり抱えられていた。

「成瀬さんは、美怜の会社のウンとお偉い方なんでしょう?お母さん、ちょっと会社のことってよく分からないんだけど。何だっけ、美怜。部長さんのまだ上の方なの?」
「そうよ、本部長なの」
「本部長?本がつく部長さんなのね。本がつおとか本だしとかの本?」

すると父が横から手で遮った。

「母さん、たとえがちょっと。本マグロとか本つゆの本ですよね?」

は、はい、とよく分からないまま成瀬は頷く。

「まあ、そんなご立派な方がこんな田舎娘をお嫁にもらってくださるなんて。大丈夫なのかしら」

成瀬はハッとして座椅子の横で正座をし直すと、畳に両手をついた。

「改めて失礼いたします。本日はお二人にお願いがあって参りました。私は会社で美怜さんと知り合い、美怜さんの仕事に対する姿勢、そして何より美怜さんの明るく純粋で優しい人柄に惹かれていきました。私など、若い美怜さんとは九歳も離れており、ふさわしくないとお考えのことと存じます。ですが私にとって美怜さんは、かけがえのない存在です。お二人にとって最愛の美怜さんを、私が一生をかけて幸せにすると誓います。どうか、美怜さんとの結婚をお許しいただけないでしょうか。よろしくお願いいたします」

深々と頭を下げると、美怜の父は慌てたように言葉をかける。

「そんな。顔を上げてください、成瀬さん。許すも許さないもないですよ。田舎で育った世間知らずの娘ですが、東京での仕事は楽しそうで、あなたと出逢えて幸せを見つけられたようです。親の私達はそれが何よりも嬉しい。明るさしか取り柄がない娘ですが、我々にとっては大切な娘です。どうか娘をよろしくお願いします」

父と母は揃って頭を下げ、美怜はそんな両親に涙ぐむ。

「はい。お二人のお気持ちはしっかりと心に刻みます。お二人の大切な美怜さんを、必ず私が幸せにいたします。美怜さんを私に託してくださって、本当にありがとうございます」

頭を下げ続ける成瀬の隣で、美怜もモモを膝から下ろして両手をついた。

「お父さん、お母さん。今まで私を愛情一杯に育ててくれてありがとう。東京で働きたいって言い出した時、心配しながらも送り出してくれたこと、ずっと感謝しています。わがままで無鉄砲な私を信頼して、好きなように生きていきなさいって笑ってくれてありがとう。これからも私は変わらずお父さんとお母さんの娘です。結婚を認めてくれてありがとう。私、幸せになるから、心配しないでね」

美怜…と母が涙をこらえて呟く。

「そうね。これからもあなたは私達の娘。そして成瀬さんが私達の息子になってくれるなんて。家族が増えて本当に嬉しい。成瀬さん、どうぞ娘ともども、末永くよろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」

四人は目を潤ませながら、笑顔を浮かべて頷き合った。