楽しかった旅行が終わり、またいつもの日常生活が始まる。

だが美怜は、迫りくるお盆休みにドキドキと緊張する日々を送っていた。

(どうしようかな、どんな服装にすればいい?)

お盆休暇中に、まずは成瀬の実家に二人で行き、その翌日に美怜の実家を訪れることになっていた。

頭の中で準備するものを考え、クローゼットを開けて洋服に悩む。

(やっぱりちゃんとした格好じゃないとね。でもビジネススーツって訳にはいかないし。あー、もう!誰か『彼の実家に行く時の服』っていう名前で売り出してくれないかしら)

手土産を買うにもデパートで散々悩み、服装がある程度決まると今度はバッグや靴、髪型やメイクまで悩み始めた。

(誰か―!『彼の実家に行く時のお任せコース』って名前で、トータルコーディネートしてくれるサロンを教えてー!)

毎晩頭を抱えているうちに、あっという間に当日を迎えた。

「もうだめ。行く前からぐったり…」

約束の時間は朝の十時。

だが美怜は六時に起きると、そわそわドキドキと支度を始めていた。

迷いに迷って選んだのは、濃紺のひざ下丈のパフスリーブワンピース。

スカートは張りのある素材でAラインになっており、胸元は和服の打ち合わせのように前身頃をV字に重ねたサープリスネックだった。

髪型はハーフアップでまとめ、お辞儀をしても顔に掛からないか、胸元がだらしなく開かないか、何度も鏡の前で確認した。

アクセサリーもパールの落ち着いたものを選ぶ。

最後に、バラのチャームのブレスレットを左手首に着けた。

また失くすのが心配でずっと部屋に置いたままにしていたが、今日はどうしてもこのバラを身に着けたくて、しっかりと落ちないようにつけ直しておいた。

「髪型よし、服装よし、顔は、まあ仕方ない。手土産も持ったし、あとはバッグと靴をもう一度チェックして…」

その時、ピンポーンとインターホンが鳴った。

「ひゃー!来たー!」

胸に手を当てて深呼吸してから、モニターに映る成瀬に応答する。

「はい」
「おはよう、美怜。もう出られる?」
「はい!すぐに参ります!」

よし!と気合を入れると、美怜は玄関で少しヒールのあるパンプスを履き、玄関を出た。