ディナーのあとは、最上階のバーに行くことにした。

ゴージャスでムード満点の店内は、二人掛けのソファもふかふかで座り心地が良く、美怜と成瀬は肩を寄せ合って美味しいお酒を楽しむ。

ピアノの生演奏に耳を傾けながら、二杯目のカクテルに手を伸ばした時だった。

聴こえてきた前奏に、美怜はピタリと手を止める。

(この曲は…)

ゆっくりと同じ和音が繰り返されるだけだが、美怜はすぐに曲名が分かった。

切なく甘く、胸に染み渡るような歌詞とメロディー。

美怜の大好きな曲『The Rose』

じっと聴き入っていると、知らず知らずのうちに涙が込み上げてくる。

胸に迫りくるピアノの音色に、遂に美怜の瞳から涙がこぼれ落ちた。

成瀬がそっと美怜の肩を抱き、振り仰いだ美怜に頷いてみせる。

美怜がはにかんだ笑みを浮かべると、成瀬はそっと手を伸ばして美怜の涙を拭い、美怜は成瀬の肩にもたれて、幸せと切なさで胸を一杯にさせていた。