「もしもーし、美怜?俺」
「卓?お疲れ様。どうかした?」

数日後。
仕事を終えた美怜が帰宅すると、卓から電話がかかってきた。

「うん、あのさ。成瀬さんが車を俺に譲ってくれるって話、聞いてる?」
「ああ、その話ね。聞いてるよ」
「本気なのかな?成瀬さん」
「そうだと思うよ。新しい車、もう選んでたし」

えっ!と卓は驚きの声を上げる。

「本部長、知らない人に売るより、卓に乗って欲しいって言ってた。思い入れのある車だろうしね」
「俺もそう言われた。けどさ、あの車、年数は経ってるとはいえ、走行距離は少ないんだ。ピカピカだし、売ればかなりの値がつくと思う。そんな車を譲ってもらうなんて、いいのかな?せめてもの気持ちでお金を渡そうかと思ってるんだけど」

どう思う?と聞かれて、美怜は、うーん,と考え込む。

「本部長は本当に卓からお金をもらうつもりはないと思う。純粋に、もらってくれたら嬉しいって気持ちで。そこに中途半端なお金を渡すと、なんかちょっと、がっかりされるかも?」
「でもなー、車なんてタタでもらうもんじゃないし」
「じゃあ、別の形でお礼をしたら?その方が喜ばれるんじゃないかな?」
「そうか、そうだな。ちょっと考えてみるよ」

うん、と美怜も頷く。

「友香ちゃんとあの車でたくさんデートできるといいね」
「ああ。彼女の家にはもちろん高級車が何台もあるけど、スポーツカーはないから、あの車に乗れるって喜んでた」
「ふふっ、ごちそうさまです」
「美怜こそ」

へ?と美怜は首をひねった。

「私が、なに?」
「隠すなって。成瀬さんと上手くいってんだろ?」
「は?な、なんで?」

どうして分かったのかと、美怜はあたふたする。

「随分と親しいようで。車も一緒に選びに行ったんだろ?」
「ど、どうして分かるの?」
「バレバレだよ」
「すごいね、卓。超能力者?」
「アホ!お前の演技が下手過ぎるの。成瀬さんのこと話してる時の声、もう甘々だぞ?」

嘘!と美怜は思わず頬を押さえる。

「末永くお幸せにー」
「もう、卓!からかわないでよ」

ははっ!と笑ってから、卓は改まったように口調を変えた。

「なあ、美怜」
「なに?」
「俺さ、やっぱり考え変わった。異性の親友は成立すると思う」
「えっ?」
「だって美怜は俺の大親友だから。今までも、これからも」
「卓…」

美怜は思わず言葉に詰まってから、嬉しさに笑顔になる。

「うん!私もよ。卓は私の一番の親友。今までも、これからもね。卓、末永くよろしくお願いします」
「ああ。これからもよろしくな、美怜」
「もちろん」

電話を通じて伝わる二人の関係は、気を許して何でも話せる、仲の良い親友同士の雰囲気そのものだった。