「美怜。今夜の美怜はとびきり魅力的だ。一度触れたら、俺の理性が吹き飛ぶくらいに。だからこのまま帰らせて」

そう言って美怜の手を解こうとする。

だが美怜はシャツを掴んだ手を緩めず、切なげに成瀬の顔を見上げた。

潤んだ美怜の瞳から涙が一筋スッとこぼれ落ちる。

「…行かないで」

涙声で小さく呟くと、美怜は意を決したように成瀬の肩に手を置いて背伸びをする。

そして成瀬の左頬に柔らかな唇を押し当ててキスをした。

驚いて目を見開いた成瀬の全身を、甘く切ない痺れが駆け抜ける。

「美怜…」

呆然と呟く成瀬に、美怜はポロポロと涙をこぼしながら懇願した。

「行かないで…。寂しいから、一人にしないで。お願い」
「美怜、俺は…。だめだ、美怜。これ以上は。君に触れたら、俺はもう…。君の気持ちを大切にしたいんだ。ちゃんと待ちたい。だから」
「好きなの!あなたのことが、大好き。だから、行かないで」
「…美怜」

成瀬の頭の中が真っ白になる。

何も考えられず、気がつけば美怜を胸にかき抱いていた。

「美怜、美怜…。俺の美怜。心から君が好きだ」

耳元でささやくと、腕の中で美怜は小さく頷く。

その白い肌と綺麗なうなじが目に入り、成瀬はそっと美怜の額にキスを落とした。

「美怜…」

もう一度名前を呼ぶと、美怜は涙を一杯に溜めた瞳で成瀬を見上げた。

右手で美怜の左頬を包むと、成瀬はゆっくりと顔を寄せる。

唇の手前で戸惑うと、美怜は潤んだ瞳で成瀬を見つめてからそっと目を閉じた。

込み上げてくる愛しさのまま、成瀬は優しく美怜に口づける。

(愛してる。大丈夫。ずっとずっと大切にする)

美怜の心の中に成瀬の想いが伝わってきた。

(私もあなたが大好きです。心から。ずっとずっとそばにいます)

美怜の想いも成瀬に伝えた。

胸の奥がジンと痺れて、切なさにまた涙が溢れる。

けれど身体中に広がる温かさは、確かに幸せの温もりで…

(これが私の、素敵な素敵なファーストキス)

美怜は心の中でしっかりとその言葉を噛みしめていた。