夕食を終えると、また庭園を散歩することにした。

浴衣の足元を気にしながら歩く美怜に、成瀬はぴたりと寄り添う。

さりげなく肩を抱き、すれ違う人から守るように歩く成瀬を見上げて、美怜は聞いてみた。

「本部長。海外にいたからそんなにジェントルマンなんですか?」
「ん?これくらい普通だけど。まあ、そうだな。欧米では、たとえ見知らぬ相手でも、男なら女性を立てるのは当たり前だ。五年ぶりに帰国した時、後ろから女性が来てるのにドアを開けておかない日本男子にびっくりしたよ」
「じゃあ向こうでは、本部長も女性にこんなふうに優しくしたんですか?」
「パーティーではね。女性を一人にはさせられないから、エスコートはするよ」
「そうなんですか」

ドレスアップした綺麗なブロンド美女を、タキシード姿の成瀬がエスコートしている様子が目に浮かぶ。

セクシーなドレスのくびれたウエストに手を回し、寄り添って歩く大人の色気をまとった成瀬。

想像した途端、美怜の顔は火がついたように真っ赤になる。

と同時に、嫌だ、と思った。

(他の誰にも触れないで欲しい)

わがままだと分かっていてもそう願ってしまい、胸がキュッと締めつけられる。

「美怜?どうかしたか?」
「え?」
「なんか…、ちょっと泣きそうに見えた」
「いえ、何でもないです」
「そうか」

成瀬はポンと軽く美怜の頭に手を置いて、そっと髪にキスをする。

そのままスルッと手を下に滑らせると、今度は美怜の手を繋いで歩き始めた。

直接触れる手の温かさに、美怜はドキドキして視線を落とす。

「手は繋いでないよ」

え?と顔を上げると、成瀬は美怜に微笑んでいた。

「エスコートはしても、手は繋いでない」
「あ…」

考えを読まれていたことの気恥ずかしさと、君は特別だよと言われているような嬉しさが入り混じる。

ますます顔を赤らめていると「美怜、見て」と声をかけられた。

「え、わあ…」

顔を上げた美怜は、思わず目を見開く。

「蛍」
「ああ」

緑に囲まれた池の周りを、たくさんの小さな光が飛び交う幻想的な光景が広がっていた。

「なんて綺麗…」

美怜は声を潜めてうっとりと見とれる。

繋がれた手をキュッと握ると、成瀬も包み込むような大きな手でしっかりと握り返してくれる。

二人は静けさの中で時間も忘れ、ただ夢とも現実ともつかない世界に浸り、心を奪われていた。