ホテルの館内は、ただ歩いているだけでも装飾や絵画を楽しめる。

そして至る所にショップやギャラリーなど、ふらりと立ち寄れる場所があった。

「季節のイベントやアクティビティもたくさん開催されているんですね。茶道や華道、書道の体験に、水引やつまみ細工やてまり作りの講座。和菓子の練り切りもある!やっぱり和のテイストのホテルだからでしょうね。外国人のお客様にも喜ばれそう。ルミエール ホテルにも和室の宴会場があるし、家具や装飾を工夫すればもっと日本ならではの雰囲気を出せそうですよね」
「そうだな。うちの和モダンシリーズの家具をご提案してみてもいいかもしれない」
「ええ」

ショップでは、ここでしか手に入らないホテルオリジナルのポストカードやお菓子を選び、カフェで休憩してから庭園に出た。

まるで森の中にいるような、辺り一面に広がる緑。
木々の間の小路を歩きながら、新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだ。

「ここ、本当に東京ですか?建物もビルもまったく見当たらないですけど。え、タイムスリップとかワープとか、してませんよね?」

真顔で尋ねると、成瀬は、ははは!と笑う。

「でも美怜の気持ちも分かる。ここが都内だなんて信じられない」
「本当に。どこか別の世界にさまよい込んだみたいですね」

咲き誇る紫陽花や樹齢五百年の御神木。
和の情緒溢れる朱色の橋、石造などの史蹟や歴史的建造物。

水しぶきを上げる滝は、岩の段差と苔むした岩肌が水の流れに変化をつけ、涼しげな水音に涼を感じられた。

自然の中に身を投じて心を無にしていた美怜は、ふと顔を上げてキョロキョロと辺りを見渡す。

「あれ?どっちから来たのか分からなくなっちゃった。ここどこ?」

成瀬が苦笑いしながら肩を抱く。

「俺から離れるなよ?絶対に迷子になるから」
「はい」

美怜は素直に頷き、成瀬のシャツをキュッと握って身を寄せてくる。

(可愛い…)

成瀬は顔がニヤけるのをどうにもできなかった。

しばらくすると竹でできた鞠や江戸風鈴がずらりと飾られた小路に出る。

「風情があって素敵ですね。これはぼんぼりかな?」
「ああ、竹ぼんぼりだな。夜になると灯りが入るらしい」
「じゃあ、日が暮れてからもう一度来てもいいですか?」
「もちろん。そうしよう」

二人は一旦館内に戻り、夕食を食べることにした。