そのあとは夕食の時間までゆっくりと、館内や庭園を見て回ることにした。

フロントでパンフレットをもらうと、その種類は、総合案内、客室、レストラン、ウェディング、宴会、スパやヘアサロン、ショップやイベントなど、数えきれない程あった。
更には庭園散策の為のマップもある。

「わあ、なんて豪華な客室!もうセレブのお住まいにしか見えません。スイートルーム宿泊者限定のエブゼクティブフロアも、大人の雰囲気で素敵ですね。結婚式場なんて五つもある!光のチャペルとガーデンチャペル、神前式の神殿が三つですって。エステサロンも二つあるし、え、プール!なんて素敵なの、このプール。もう海外のリゾートに来たみたい。はあ、うっとり」

思わず胸にパンフレットを抱きしめると、限界だとばかりに成瀬が吹き出した。

「あはは!ミュージカル女優顔負けだな、美怜」
「え、何ですか?それ」
「だって目をキラキラさせながら感激してさ。なかなか面白かったけど、パンフレットの写真だけで盛り上がってないで、実際に見て回ろう。ほら、おいで」

そう言って成瀬は美怜の肩を抱いて歩き出す。

緩やかな曲線を描く大階段を上がるのにも、美怜はあちこちに目をやりながら、ほわーんと夢見心地になっていた。

成瀬はちょっと考えてから手をスッと下ろし、ほっそりとくびれた美怜のウエストに腕を回して抱き寄せる。

美怜は周りを眺めるのに夢中で気づいていないらしい。

「転ばないようにね」

真面目な口調でそう言いつつ、美怜の身体を間近に感じ、成瀬は頬を緩めっぱなしだった。

三階まで上がると、空中庭園と名づけられた大きなガーデンが広がっている。

「素敵…。天空の花園みたい」

呟きながらゆっくり花を眺めていると、ふいにリーンゴーンと大きな鐘の音が響き渡った。

え?と振り返ると、シックなブラウンの木が印象的なクラシカルなチャペルから、まさに式を挙げたばかりの新郎新婦が姿を現した。

ひゃあ…と美怜は声にならない声を上げて、思わず両手で口元を覆う。

ウェディングドレスとタキシード姿の二人は、列席者からのフラワーシャワーを浴びて幸せ一杯に微笑んでいる。

(はあ、なんて輝きに満ち溢れてるのかしら)

美怜は目尻に涙を浮かべながら、祝福の拍手を送った。