「すみません、結局またごちそうになってしまって」

お手洗いに行ったついでに会計を済ませて席に戻り、そろそろ行こうかと外に出た成瀬に、美怜はピンと来て頭を下げた。

「いや、気にしなくていいから。はい、どうぞ」

助手席のドアを開けて美怜を促す。

「明日からまた仕事だな。ミュージアムはどう?相変わらず忙しい?」

美怜のマンションまで運転しながら、成瀬が尋ねた。

「そうですね、相変わらずです。でも秋から冬にかけては、おうちの飾りつけやコーディネートが楽しめる時期じゃないですか。ハロウィンやクリスマス、お正月とか。そのレイアウトを考えたり、モデルルームを作る作業は楽しいです」
「そうか。いいな、あのミュージアムの雰囲気は。また私もミーティングに立ち会ってもいいかな?」
「もちろんです。いつでもお待ちしています」
「ありがとう」

やがて美怜のマンションに到着し、成瀬は助手席のドアを開けて美怜に手を貸す。

「ありがとうございます」

成瀬の右手に重ねた美怜の左手には、あのバラのチャームのブレスレットが揺れていた。

(まだ大事にしてくれているんだ)

嬉しさに成瀬は思わず頬を緩める。

「本部長、色々とありがとうございました。お陰様でとっても楽しい旅行になりました」
「こちらこそ。明日に備えて今夜はゆっくり休んで」
「はい、本部長も。送ってくださってありがとうございます。この先もお気をつけて」

成瀬は美怜に荷物を渡してエントランスに促し、その姿が見えなくなるまで見送った。