「なんだか久しぶりだな、運転するの。変な感じ」

ハンドルを握る成瀬に、美怜も頷く。

「私も助手席に座るの久しぶりな気がします。運転してる本部長見るのも。旅行中はずっと富樫さんが運転してましたもんね。友香ちゃん、富樫さんのこと四割り増しでかっこ良く見えてたかも」
「え、四割も増すの?じゃあ俺も今、四割増しでかっこいい?」
「いやー、一割くらいかな?」
「なんでだよ?!」

前を見ながら突っ込む成瀬を軽く流し、美怜は窓の外を見つめる。

「今頃どうしてるかな?あの二人」

美怜のその呟きに、成瀬は複雑な思いになる。

(二人をくっつけようとしているってことは、結城さんは相変わらず富樫に気はないんだろうな。富樫は?結城さんのことを諦めたのだろうか。今までは結城さんとお似合いだと思ってたけど、確かに今の富樫は友香さんとお似合いだ。二人が恋人同士になったら、結城さんは?)

二人の関係が微妙に変わるのではないかと思い、成瀬は美怜に話しかけた。

「あの、さ」
「はい。何でしょうか?」
「うん、あの…。富樫が友香さんとつき合うことになったら、君は困らない?ほら、疑似デートにも行けなくなるし、富樫は君の相談相手だっただろうから」

すると美怜は、なんだ、そんなこと?と言わんばかりに笑顔になる。

「富樫さんが友香ちゃんと恋人同士になったら、私はすごくすごーく嬉しいです。だって富樫さんは、私の親友ですから。心から祝福したいです。疑似デートは行けなくなりますけど、それはまあ、仕方ないです。想像力でカバーします。あはは!」
「そうか、分かった。まあ俺じゃあ富樫の代わりはできないけど、相談には乗るから。何でも話してきて」
「はい。ありがとうございます、本部長」
「あと疑似デートは無理だろうけど、つき添いの先生役はできるから」

真顔でつけ加えると、美怜は笑い出す。

「先生、私もう二十五なんです。一人でどこでも行けますよ?」
「でも女の子が一人であちこち行くと、ナンパされたりして大変だろ?」
「されたことないですよ。私、モテませんし」
「本当に?自覚のなさが余計に怖いな。ちゃんと警戒心持ってね」
「はい、先生」
「うむ。よろしい」