「…で?」

真っ白なスポーツカーに片腕を載せてもたれかかり、モデルのような立ち姿で成瀬が卓に睨みを利かせる。

約束した旅行の日になり、卓と待ち合わせした駅に着くと、ロータリーに成瀬が車で現れて美怜は驚いた。

今日の成瀬は、オフホワイトのシャツにブルーのリネンジャケットを合わせた爽やかな装いだった。

「二度も俺をアッシーに使うとは、見上げた度胸だな、富樫」

どこかで見たな、この光景…と美怜は苦笑いする。

(卓ったら。車を借りる、なんて言うからてっきりレンタカーだと思ってたのに)

美怜が肩をすくめると、卓は片手をひらひらさせながら成瀬に軽く言う。

「まあまあ、そうおっしゃらず。休日返上で視察に行く仕事熱心な部下を褒めてくださいよ」
「お前、いつの間に調子戻ったんだ?思い出したよ、そういうやつだったよな、富樫って」
「なんですかー?ちょっと鳥のさえずりに耳を傾けてて、聞き逃しちゃいました」
「おまっ、絶好調だな?呆れて声も出んわ」
「ほら、早くルミエールに行きましょうよ。友香さん待ってますよ」
「やれやれ。運転はお前な」

そう言うと成瀬はさっさと後部座席に座る。

「ええ?!どうしてですか?」
「お前がうるさくて気が散って運転できん。それに友香さんに、こんな車乗ってるんだーって痛いおじさんに見られるのが嫌だ」
「あはは!そんなこと気にしてるんですか?」
「笑うなってば!」

二人の止まらないやり取りに、美怜は苦笑いを浮かべたまま後部座席の成瀬の隣に乗り込んだ。

ここはルミエール ホテルの最寄駅。
車でホテルへはものの数分で到着した。

卓はロータリーに車を停めると、本館のエントランスに入っていく。
すぐに友香を連れて戻って来た。

「おはようございます!成瀬さん、美怜さん」

ゆるく髪を一つに束ね、カジュアルなジーンズとカットソー姿の友香が、笑顔で挨拶する。

卓はどうやら友香には、成瀬も一緒だと伝えていたらしかった。

「この四人で旅行に行けるのをとっても楽しみにしていたんです。よろしくお願いします」

飾らない笑顔でそう言う友香に、美怜も成瀬も目尻を下げる。

「こちらこそよろしくね、友香さん。私もとっても楽しみにしてたの。旅行なんて久しぶりで」
「美怜さんも?私もなんです。行きたくても一緒に行ってくれる友達もいなくて。だから本当に今日は楽しみで仕方なくて」

早くもおしゃべりが止まらない友香を、卓が助手席に促した。

「卓さん、こんなにかっこいい車に乗ってるんですね。とってもお似合いです」
「ありがとう。かっこいい車って褒められましたよ?成瀬さん」
「うるさい!」

卓をジロリと睨む成瀬に、友香が、ん?と不思議そうにする。

美怜はまたしても苦笑いを浮かべた。

「友香さん、気にしないでね。この二人、いつもこうなの」
「そうなんですね。仲良しで素敵ですね」

その言葉に成瀬と卓はぶるっと身震いした。

「友香さん、寒いこと言わないで。どこをどう見たら俺と富樫が仲良く見えるの?」
「そうだよ。身分も年齢も、ウンと離れてるんだよ?」
「富樫!歳の話は余計だ!」
「あれ?気にしてたんですか?」
「お前ー、覚えてろよ?帰ったら仕事ドッサリ増やしてやる!」
「うわ、堂々とパワハラ宣言?」

ふふっと友香は楽しそうに笑う。

「ほんとに仲良しですね。うらやましいな」

「どこが?!」とセリフが重なった卓と成瀬に、友香はまた声を上げて笑った。