「えーっと、会場はアネックス館の五階。ガーデンテラスに面したバンケットホールだ」

成瀬が招待状を確認して、三人はエレベーターホールへ向かう。

ロビーを横切る時、ローズチェアに座って写真を撮っているカップルが目についた。

「可愛いね!この椅子。バラの椅子だよ?素敵!」

そんな彼女の声が聞こえてきて、美怜は嬉しさに笑みがこぼれる。

五階へ上がると、バンケットホールは既に多くのゲストで賑わっていた。

皆、飲み物を片手に談笑している。

広い会場は内装もゴージャスで、美怜は感激して辺りを見回した。

すると倉本が近づいて来て笑顔で握手を求める。

「これはこれは!ようこそお越しくださいました。成瀬さん、富樫さん、結城さんも」
「倉本さん、本日はお招きありがとうございます」
「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます。新しい客室も大変好評で、予約も連日満室。総支配人もメゾンテール様には大変感謝していると申しておりました」
「大変光栄に存じます。後ほど総支配人にもご挨拶させていただければと」
「ええ、ぜひ。今夜は堅苦しくない立食パーティーです。どうぞたくさん召し上がってください」
「はい、ありがとうございます」

開始時間まではまだ十五分程あり、三人はドリンクを片手に改めて会場内の様子に目をやった。

着飾ったご婦人達やフォーマルな装いの男性達は、ほとんどが四十代もしくは五十代くらいだろうか。

自分達よりかなり年上に見える。

「本部長、今夜はホテル業界の方が多く招かれているのですか?」

美怜の問いに、成瀬はゲストの顔ぶれを確かめながら軽く首を振る。

「いや、どちらかというとマスコミかな。雑誌の出版社やインターネットの情報発信サイト、あとはラジオやテレビ局も。リニューアルした客室のお披露目が目的のパーティーだろうからね。あ、旅行会社もいるな」
「よくお分かりですね。お知り合いですか?」
「まあ、仕事の繋がりでね」

そのうちに成瀬に気づいた数人が、「お久しぶりです、成瀬さん」と声をかけに来た。

「海外から戻っていらっしゃったんですね」
「ご無沙汰しております。はい、去年の夏に帰国しまして、今は本社に勤務しております」
「そうだったんですね。また改めてご連絡させてください。お仕事のお話をさせていただければと思います」
「かしこまりました。今後ともよろしくお願いいたします」

その後も次々と成瀬のもとへゲストがやって来た。

だんだん美怜と卓は成瀬から遠ざかる。

「すごいね、本部長。大人の世界って感じ。やっぱり私達とは身分も世代も違うね」
「ああ、そうだな。あんなに年輩の役員クラスの人達と面識があるなんて。成瀬さんが営業マンとしてどれだけ成績が良かったのかが分かるよ」
「そうよね。今お話ししてる女性も、とっても綺麗で知的な雰囲気。やっぱり本部長のいらっしゃる世界って、大人の世界よね。私なんて、この会場にいるのも恥ずかしくなってきちゃう」

しょんぼりと肩を落とす美怜を、卓はそっと横目でうかがう。

今夜の美怜は別人のように大人っぽく美しい。

美容室から出て来た美怜をひと目見た時、時間が止まったかのように驚いて息を呑んだ。

いつもは可愛いなと思っていた美怜を、初めて近寄りがたいくらい美しいと思った。

今も、隣に並んでいる美怜は、ひとたび目を向けてしまうと逸らせなくなってしまう程、魅力的で輝いている。

(マズイな。今夜は俺、できるだけ美怜と離れていよう)

そう思い、なるべく卓は美怜を視界に入れないように気をつけていた。