「はい、結城です」
「成瀬だ。結城さん、今どこに?」

切羽詰まったような口調の成瀬に、美怜は戸惑いながら返事をする。

「本社の近くの美容室です。これからそちらに向かうところで…」
「いや、来なくていい。富樫が来たら車で迎えに行く。そのままそこで待ってて」
「え?はい。承知しました」

店の名前と場所を伝えると、じゃあ、あとで、とすぐに電話は切れた。

(どうしたのかな?本部長)

とにかく言われた通りに待つことにした。

店の外に立っていると、どうぞ中へ、とスタッフが声をかけてくれる。

入り口のソファに座って待っていると、しばらくして見慣れた白いスポーツカーが止まった。

中からスリーピースのスーツを着こなした成瀬と卓が降りてくる。

「きゃっ、かっこいい!」

店内にいたスタッフ達が一斉に色めき立った。

美怜はお礼を言ってから、ドアを開けて外に出る。

「本部長、すみません。わざわざ迎えに来ていただいて」

そう声をかけると、成瀬と卓は美怜をひと目見るなり驚いたように動きを止めた。

「あの、本部長?」
「あ、すまん。どうぞ乗って」
「はい、ありがとうございます」

成瀬が開けてくれたドアから助手席に座ろうとすると、卓が横から手を伸ばして美怜が持っていたカバンと衣装ケースを取り上げる。

「荷物預かるよ」
「ありがとう」

美怜は成瀬の手を借りて助手席に乗り込んだ。