作業は日々順調に進み、残すはプリンセスがテーマの部屋だけになった。

「とっても可愛いですね!想像以上にラブリーな感じです」

仕上がり具合を確認しに入った部屋で、美怜は目を輝かせてピンクの部屋を見渡す。

「壁に飾ったお城のタペストリーも、存在感あってすごくいいですよね。ドレスを着た女の子が、ここで記念写真撮ったら素敵だろうな。本部長、ちょっとこのお城の前に立っていただけませんか?」

真顔で振り返った美怜に、成瀬は「はっ?!」と間抜けな声を出す。

「いやいやいやいや、無理だから!」
「そうおっしゃらず。参考資料として記録しておきたくて」
「それなら私が撮るから。ほら、君が立って」
「いえ、恥ずかしいので」
「俺は君の百万倍恥ずかしいんだって!」

思わず素に戻って抗議すると、「えー、そんなに?」と美怜は首を傾げる。

「それなら仕方ないですね。人物入れずに撮っておきます」
「うん、それがいい」

美怜は何枚か壁の飾りをスマートフォンで撮影した。

写り具合を確かめていると、ん?と成瀬が美怜を見ながら小さく呟く。

「どうかされましたか?」
「あ、いや。その、それってもしかして…」

それ?と思いながら成瀬の視線を追った美怜は、胸元のペンダントを見て、ああ、と笑みをもらす。

「これ、本部長にいただいたバラのチャームです」

そう言って赤いバラにそっと手で触れる。

「やっぱり!でもそれ、ペンダントじゃなかったと思うけど?」
「はい。スワロフスキーやビーズと一緒にテグスに通して、ペンダントにしてみました」
「ええ?!そんなことできるの?」
「案外簡単ですよ。これを見ると気持ちが落ち着くので、いつも身に着けていたくて。本部長、素敵なチャームをありがとうございました」
「いや、こちらこそ。そんなふうに大切にしてくれるとは思わなかった。嬉しいよ」

美怜はもう一度ふふっと微笑むと、また確認作業に戻った。

他の部屋の確認も全て終えると、倉本に挨拶してからエレベーターへと向かう。

「今日、昼休憩あまり取れなかっただろう?お腹空いてないか?」

歩きながら成瀬は隣の美怜に声をかけた。

「そう言えば空いてます。本部長も、今日は確認作業が多くて昼食召し上がってませんよね?」
「ああ、今になって腹が減ってきた。何か食べていこうか」
「そうですね」

せっかくだからと、ルミエール ホテルの本館のロビーラウンジに行ってみることにした。