一方、美玲と卓を駅前で降ろした成瀬は、自宅マンションに戻り、ふう…とソファに身体を預ける。

(富樫、やっぱり結城さんが好きなんだろうな)

最近、車に乗っても以前のようにはしゃぐこともなく、どこか思い詰めた様子の卓が気になっていた。

先程ホテルのイベント会場で振り返った時に目にした、卓の切なげな表情。
その視線の先には、笑顔の美怜がいた。

そこで全てを悟った成瀬は、今夜二人が水入らずで過ごせるように、仕事が残っていると嘘をついて二人と別れたのだった。

(富樫、今頃告白してるだろうか。上手くいくといいんだが)

若い二人を心から応援したい、成瀬はそう思っていた。

水でも飲もうと立ち上がり、ふと足元に置いたカバンに目をやる。

美怜からチョコレートをもらったことを思い出した。

取り出して、そっとラッピングを解く。

「えっ、なんだこれ」

思わず声を出してしまった。

箱の中には、有名な車のメーカー名が入った丸い缶。

チョコレートではないのか?と思いながら、缶のふたを開ける。

「え、すごい!」

またしても声を上げてしまった。

入っていたのは、精巧に作られた車のチョコレート。
ひと目で有名なクラシックカーだと分かった。
その横には、四つの丸いタイヤまである。

「こんなのあるのか!」

どうやらバレンタイン限定で有名チョコレートメーカーとコラボしたらしい。

「知らなかったな。それに良くできてる。もしかして、このタイヤ…」

いやまさか、と思いつつ車のボディを持ち上げ、タイヤの一つを当ててみると、ぴたりとはまった。

おおー!と目を輝かせながら、残りの三つのタイヤもはめる。

かっこいい…と呟き、缶のふたに載せると写真を撮った。

「いいなー、すごいな、これ」

嬉々として写真と実物を交互に眺める。
そして、ガクッと肩を落とした。

「どうしよう…、食べられない」

どうすればいいんだ?と、成瀬は本気で悩み始めた。