「ねえ、美怜。バレンタインデーって何か予定あるの?」

翌日の二月十一日。

終日ミュージアムで案内業務をこなした美怜に、ロッカールームで佳代が声をかける。

「バレンタインですか?いつもと同じで仕事だけですけど」
「じゃあさ、仕事上がりにまた疑似デート行って来たら?新しいプラン、美沙と一緒に考えたんだ」
「え?でも、この間行ってきたばかりですし、仕事のあとなんて夕食を食べるくらいしかできないですよ?」
「へっへー。そう言うと思って、ちょっと考えたんだ。美怜、ルミエール ホテルの様子、気にならない?実際のカップルがバレンタインをどう楽しんでるか」
「それは、気になりますけど」
「でしょ?そこで考えたこのプラン。ちょっと見てみてよ」

美怜は佳代が差し出したメモを受け取る。

「ん?ルミエールに視察に行くんですか?」
「そう。で、そのあとはバレンタインの特別メニューがあるレストランで食事をして、バレンタインの特典がある展望台で夜景を眺めて、これまたバレンタインのスペシャルカクテルが楽しめるバーに行く。っていう、この日だけのデートプランなの。ね?行っておいでよ」

うーん、と美怜は渋い顔になる。

「卓も本部長もお忙しいからなあ。ご迷惑かもしれないし」
「なら、卓くんだけ誘えばいいじゃない」
「でもルミエールに視察に行くなら、本部長と三人で伺って先方にご挨拶した方がいいですよね」
「じゃあ先方に気づかれないように、こっそり見るだけにしたら?」
「それで見つかったら、それこそなんて挨拶すればいいか。それに私達、かなりたくさんのホテルスタッフの方々に顔を覚えていただいてるので、こっそりは難しそうです」

んんー!と佳代はじれったそうな声を上げる。

「とにかく!一度誘ってみなよ。ね?無理なら無理でいいからさ」

ぐいぐいと迫ってくる佳代に押し切られ、はい、と美怜は仕方なく頷いた。