ある程度一品料理を食べ終わると、卓は早々に席を立つ。

「じゃあ、俺はお先に失礼します。これ、俺の分です」
「いいの!気にしないで」

慌てて五千円札を押し返す佳代に、でも、と卓が戸惑う。

「呼び出したのはこっちなんだから。それにこれでも私達、卓くんより先輩なの。おとなしく甘えてなさい」
「はい、ではお言葉に甘えて。ごちそうさまでした」
「うん。気をつけてね」
「はい、失礼します」

卓が個室を出て行くと、佳代と美沙は同時に大きなため息をつく。

「卓くん、めちゃくちゃ沼ってるね。お姉さん、胸が締めつけられちゃったわ」
「ほんとに。あんなに能天気ボーイだったのが、今は雨に打たれた子犬のよう」
「ねえ、美怜はこの卓くんの変化に気づいてると思う?」
「いやー、気づいてないでしょう。だから卓くんだって悩んでる訳だし」
「でもね、疑似デートの報告してくれた時、美怜言ってたのよ。卓が口数少なかったって。何か悩み事でもあるのかなって」

えっ!と美沙は顔を上げて佳代を見る。

「じゃあさ、美怜がそのうち卓くんの気持ちに気づくかも?」
「うん、私もそれはあり得ると思う。その時に美怜がどう思うか…。私も卓が好きかも?って少しでも思ってくれたらいいよね」
「うんうん。佳代、また疑似デートのプラン考えてあげようよ」
「そうだね。それなら卓くんも、気兼ねなく美怜とデートできる訳だしね。よし!早速考えるわよ、美沙」

手帳のフリーページを一枚破くと、佳代と美沙は二人でああでもない、こうでもないとプランを考え始めた。