「あの、少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、どうぞ」
「はい。ミュージアムには初めていらしたということでしたが、率直にいかがでしたでしょうか?何か改善点がありましたらご教授いただきたいのですが」

真剣に話し始めた美怜に、成瀬は驚く。

「いや、そんなことは何も思い浮かばなかった。ただ圧倒されてしまって。うちの社にあんな部署があるとは知らなくて、私の方こそ勉強させてもらった」
「そうでしたか。一般のお客様の中にはリピーターの方もいらして、予約もお陰様で毎回満席なのですが、意外と社内では知られていないのが現状です。営業の卓…、あ、富樫さんはよくお客様との商談に利用してくれるのですが、他の社員の方はほとんどいらっしゃいません。ですので、改善が必要かなとチームメンバーで話しているんです。コンテンツを入れ替えるのは容易ではないので、何かイベントを企画するとか、私達のご案内も改善できるところはしていきたいと」

成瀬はますます美怜の言葉に舌を巻いた。

「いや、その。恥ずかしながら、私もこのミュージアムの意義を正しく理解していなかった。だが今日見学させてもらって、感銘を受けたよ。私が営業だった時は、常にどうすれば契約が取れるかを考えていて、先方にも契約に関する話ばかりしていた。今日の君の案内は、まさに目から鱗だったよ。君の言葉に納得して、先方も、この会社なら信用できると感じてもらえたんだと思う」
「本当ですか?」
「ああ。これでも営業には六年いたんだ。たかが六年では、私の言葉を信じてもらえないかもしれないが」
「いえ、とんでもない。まだ入社して二年ちょっとの私からすれば、大先輩でいらっしゃいます」

二年?!と、成瀬は目を見張る。

「君、まだこの会社に入ってから二年しか経ってないの?」
「はい。新卒で二年前の四月に入社しましたので、正確には今、二年と四ヶ月です」
「ってことは、君、まだ二十四歳ってこと?」
「はい。今年で二十五になります」

そんなに若くてあの商談を?と、成瀬はもはや呆然とする。

(あんなに堂々と臆することなく、自分よりもはるかに年上の相手から契約をもらう営業ぶり。いや、もしかして営業をかけたという感覚ではないのかもしれない。それにしてもこんな大口の契約を、営業部でもない二十四歳の女の子がいとも簡単に取るなんて…)

ジェネレーションギャップなのか、カルチャーショックなのか?

とにかく成瀬は、運ばれてきたレモネードスカッシュを飲んで「美味しい!」と笑顔を浮かべる美怜を、まじまじと見つめていた。