「ねえ、卓くん。美怜は今もフリーだし、特に誰か好きな人がいるようにも見えない。卓くんが告白すれば、頷く可能性だって大きいと思うわよ?美怜にとって卓くんは、一番近い存在な訳だしさ」

美沙が明るくそう言うが、卓は首を振った。

「あいつにとって一番近い存在は、俺だけじゃないです」
「え?他に誰がいるの?」
「本部長です」

本部長ー?!と、美沙は佳代と声を揃えておののく。

「本部長って、あの本部長?あんなにモテそうなのに彼女いないの?」
「はい。今はフリーだって」
「いや、それにしてもよ?あの人は美怜とは歳が離れてるし、立場だってウンと違う上司と部下だし。同期で親友だって認められてる卓くんの方が、絶対に本部長よりリードしてるって」
「そんなことないです」

またしても暗く否定する卓に、二人は顔を見合わせた。

「どうしてそう思うの?」
「それは、その…。あいつ、去年のクリスマスに俺にプレゼントくれたんです。本部長もその場にいたのに、俺にだけこっそり。それも車好きの俺に合わせて、車型のワイヤレスマウスを。俺、すごく嬉しくて。でも最近、本部長の執務室で見つけちゃったんです。本部長のデスクの上に、俺にくれたのと同じ車型のマウスが置いてあるのを。しかも本部長、俺が美怜に贈った誕生日プレゼントのこともご存知でした。きっと美怜が話したんだと思います。それくらい美怜にとって、本部長は気を許して何でも話せる存在なんです」

うーむ、と負けを認めたような様子の佳代を、美沙がツンツンと肘で突く。

「佳代、ほら、何とかしてよ」
「そんなこと言われても…」

小声でささやいていると、卓がフッと自嘲気味に笑った。

「すみません、気を遣わせてしまって。俺のことは気にしないでください」
「でも…」
「本当に大丈夫ですから」
「そう?何かあったらいつでも相談してね」
「はい。ありがとうございます、佳代先輩。美沙先輩も」