『ここは地球。この美しい惑星では、いつもどこかで綺麗な星空が広がっています。さあ、星空を追って世界を旅してみましょう』

ナレーションのあと、パーッと一気に満天の星空が天井のドーム一杯に広がった。

「ひゃー!綺麗!」

美怜が小さく感嘆の声を上げる。

卓も、ああ、と頷いた。

小学生の時に観たプラネタリウムとはまるで違う。

テクノロジーの進化と共に、より一層美しく鮮やかに映し出される星座。

そこに世界の名所の夜景もコラボして、それぞれの国の雰囲気も楽しめた。

アラビアの宮殿の上に広がる星空は、まるで魔法の絨毯に乗って眺めているように。

エジプトのピラミッドを背景にした夜空は、スフィンクスの目線で。

パリのオシャレな街並みを彩る星は、エッフェル塔から見下ろすように。

次々と流れるように世界を旅したあと、じっくりと星座の解説もあった。

「素敵ね…」

うっとりと見上げながら呟く美怜の横顔は美しく、瞳は星空を映して輝いている。

そんな美怜から、卓は目が離せなくなった。

頭の中にかつての自分の言葉が蘇る。

『ずっと親友だと思ってた男女も、ふとした瞬間にいい感じの雰囲気になって、そうすると一線超えちゃうだろうなって。だから異性の親友は、単にそんな雰囲気になったことがないだけなのかなと。何かのきっかけがあれば恋人同士になる、そんなちょっと危うさを抱えた親友ってことですかね』

それは、まさにこのシチュエーションのことではないか?

ふとした瞬間にいい感じの雰囲気になるのが、まさに今で。

(だめだ!とにかくいかん!)

正面に顔を戻し、必死で自分に言い聞かせる。

一方で、何がだめなんだ?ともう一人の自分が問いかけてきた。

(別にいいじゃないか。自分の気持ちに素直になってみても。今、美怜のことを意識し始めた自分を認めてもいいじゃないか)

だがそこで美怜のセリフが思い出された。

『お互い同じ気持ちだったら恋人に進展してもいいけど、どちらかがそうじゃなかったらちょっと悲しいかな』

そうだ、美怜は確かにそう言っていた。

『そこで気まずくなって、親友ではいられなくなるかもしれません。そんなふうに関係性が変わってしまうなら、私は親友のままがいいかな』

自分が美怜を好きになっても、美怜がそうでなければ、今の関係さえ終わってしまうかもしれない。

それならこの気持ちは封印して、これまで通り美怜とは親友として楽しくつき合った方がいい。

卓はそう結論を出した。

それがこの先、どんなに自分の心を苦しめることになるか、その時はまだ知らずに。