「やったー!ラザニア、間に合ったー!」

本日の日替わりランチのボードがまだ店頭にあるのを見て、美怜は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。

(案内中の時とは別人だな)

成瀬がじっと真顔で美怜の顔を見ていると、美怜はキョトンと目を丸くする。

「あの、もしかしてラザニアお好きではないですか?でしたら他のメニューもありますし、別のお店でも…」
「え?…あ、いや。そんなことはない。ラザニアにするよ」
「そうですか、良かったです。ここのラザニア、絶品ですよ」
「そうか」

ようやく店内に入ると、ちょうど空いたテラス席に案内される。

八月の下旬でまだ気温は高いが、大きなパラソルのおかげで日差しは強くない。

「食事の前にちょっと飲んでもいいですか?」

メニューを見ていた美怜に尋ねられ、成瀬は、えっ?と驚く。

「昼間から飲むの?」
「はい。…あ!違いますよ?お酒じゃないです。レモネードスカッシュが飲みたくて」
「あ、そうか。そうだよな、すまん」
「いえ。私こそ、紛らわしい言い方をしてすみません」

思わず身を縮こまらせてから、オーダーを取りに来たスタッフに注文する。

「えっと、ラザニアを二つとレモネードスカッシュを…」

そういうと美怜は成瀬に視線を向けた。

「あの、何か飲まれますか?」
「ああ、そうだな。では同じものを」
「はい。じゃあ、レモネードスカッシュも二つお願いします」

かしこまりました、とスタッフが去ると、美怜はグラスの水をひと口飲んでから顔を上げた。