「えっ?」

「なんか、元気ないですね」

「別に…」

密かに感じていた、切なさや淋しさを悟られまいと、そっぽ向いてしまった。

「あー…森川、仕事は?」

「僕ですか?いわゆる技術系職員ってやつです」

「公務員ってこと?あぁ、それで読書会のことを知ったの?」

この読書会は、市が運営している。

「違いますよ。僕は県の職員だし、技術系だから、さっきの人たちとは何の接点もないですし。それより、先輩こそ実家が職場って、石材店を継ぐことにしたんですか?」

「何でうちが石材店だって知ってるのよ」

実は、思春期の頃、“石屋の娘”であることが密かにコンプレックスだった。

海外赴任の多いエリートサラリーマンの家庭に憧れ、自分は15で上京し、大学では就職に繋がらない哲学を専攻。

都会で好きなことだけやって、奔放に暮らす…そんな自分に酔っていた。