私は逃げたんだ…。

自分がこれ以上傷つきたくないから…。

これ以上ツラい想いしたくないから…。

大好きなお兄ちゃんがいるあの家から

逃げたんだ…。

「ううん。お礼なんて良いよ。でも梨音…」

お礼を言う私に首を振ると

気まずそうに目を泳がしながら

私の名前を呼ぶ。

『ん?』

首を傾げて彩美を見つめると

目を閉じて

一つ深呼吸をし、口を開いた…。

「言うべきか迷ったけど…言うね?さっき…お兄さんとすれ違ったんだ…」

『そっ‥かぁ』

分かってたことなのに

心はやっぱり正直で

すごく、すごく

傷ついてる…。

寂しげな返事に焦りを見せる彩美…。